執筆のオクスリ

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瓶詰めされた白い錠剤、ラベルには、『小説が書けない時に一錠お飲みください』と書かれていた。 あまりに疑わしい。薬を飲んだだけで小説が書けるなんて馬鹿げている。しかし、そんなことを考えつつも、私はその薬を手に取っていた。 薬を飲んですぐ、パソコンの前に向かう。キーボードに指を置くと同時に、指が動き始めた。パソコンの画面に物語が紡がれていく。 ワードの画面はあっという間に文字で埋め尽くされ、次のページ、次のページへとどんどん進んでいく。私はその光景に、恐怖をおぼえる。私の指は、私の意思とは関係なく、勝手に動いているのだ。そして、そこに映し出された小説は、非常によくできていた。 これが薬の効果なのか。まさか、こんなに効き目があるなんて思いもしなかった。長編一作が、数時間で出来上がった。読み直しても、全く問題なく、推敲の必要すらなかった。
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