執筆のオクスリ

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メールに書かれていた住所は、私の家からすぐの場所だった。いったい、この住所の場所には何があるのだろうか。ドキドキしながら私はその場所へと向かう。 そこは、商店街の端だった。シャッターが下りている店が多い、さびれた商店街だった。その住所の店は、シャッターが開いていた。その看板に書かれていたのは、『田中書店』という四文字だった。 私はてっきり薬屋なのだと思っていた。しかし、目の前にあるのは、どう見たって本屋だ。店内をぐるっと見回すが、何の変哲もない普通の本屋で、もちろん薬も置いていない。 『住所の場所に行きましたが、本屋があるだけで、薬はありませんでした』 私は家に帰り、早速メールする。 『そんなことはありません。薬はあったはずです』 その返信を見て、ムッとする。住所を間違えたのか、もしくは私をだましているのか、どちらかしか考えられない。メールを打とうとした時、新たに一通のメールが来た。 『今あなたに必要な薬は、本です』 そのメールの意味を考える。私に必要な薬は、本。いったいどういうことか。すると、また新たにメールが来る。 『どんな作家にも、スランプの時期はあります。そこで試行錯誤し、闇の中をもがき、書き上げた作品だけが、書店に並び、輝きます。書店に並んでいる本は、作家達が悩み、苦しみ、生み出した作品であり、今のあなたにとって、最も必要な"おくすり"です』 何度もそのメールを読み直す。私はそこで思い出した。書籍化という成功の裏には、一人で悩み苦しんだ時間があるということを。書店に並んでいる本の数だけ、作家は悩んできたのだ。
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