執筆のオクスリ

1/6
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
私は全く小説が書けなくなっていた。 小説の新人賞を勝ち取って、作家デビューしたのが三年前だ。出版された本はそれなりに有名になり、その年のベストセラーと言われた。二冊目のジンクスも乗り越え、作家人生を好調に滑り出し、今から栄光の階段を駆け上がろうとしたその時に、少しも筆が進まなくなったのだ。 以前は、パソコンの前に座れば、自然と物語が浮かび、登場人物達は生き生きと動いてくれた。しかし、今は、キーボードに置いた指は、微動だにしない。きっと、すぐに書けるようになるだろう。そう思ってから一週間、私はさすがに焦り始めていた。私の人生において、初めてのスランプがやってきたのだ。 そんな中で、私はあるサイトを見つけた。それは、ネットの薬販売のお店だった。 『どんな"おくすり"でも用意できます』 そのサイトには、大きくそう書かれていた。私は鼻で笑ってしまった。よほど自信があるのだろう。しかし、今の私の悩みを解決してくれる薬など、決して用意できないだろう。 『小説が書けるようになる薬をください』 私は冗談半分で、そんなメールを送った。その数分後、『承知しました』と返信が来た。私は驚いてしまった。もしかして、本当にそんな薬があるのか。いや、ただ機械的に返事しただけだろう。小説が書けるようになる薬なんて、あるわけがない。 疑い半分でいたのだが、数日後、その薬が家に届いた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!