はじまりは撲殺

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5時までに古刹が何をしていたのかと言えば、ナニをしていたわけで、まあ、ようするに金の工面をしていた。腐るほどの富を盛ってはいるが、それを他人のために使うということが初めてだったわけで何をどのようにどれくらい用意すればいいのか分からずに銀行のATMコーナーで限度額以上をおろそうとしてアラームを鳴り響かせていた。 鞄に札束を詰め込んで高級ブティックに行くも何が好きなのか、何を好むのか全く分からずに店員に尋ねるも 「黒髪美人に似合うもの」「そしてそれを渡した俺が好かれるもの」「全人類が好むもの」と、抽象的すぎて答えらずに困らせていた。 全人類が好むものの代表例として、「金(きん)かな」と、思いつき、貴金属店に行って一番大きなものを購入する。 札束が詰め込まれていた鞄は空っぽになり、代わりに厳重に包まれた金の延べ棒が入った。 5時ピッタリにしず香の部屋のドアがノックされる。本当はものすごーく出たくないと思っているしず香だったが、でなきゃでないで五月蠅そうだと思い、ガチャリと開ける。 思ったよりも古刹の顔が近くてしず香は一瞬ビックリするが、それ以上に古刹の方がビックリして、ビックリしすぎて心臓が飛び出そうになるのを左手で押さえながら右手に持っていた金の延べ棒で思いっきりしず香を殴ってしまう。もともと運動神経がいい古刹であったが、これは運動神経じゃなくて反射神経の問題だった。目視できないくらいのフルスイングでしず香は床に吹っ飛んで沈んだ。筋肉が骨に食い込む鈍い音、骨が肌を貫いてめりこむ音、倒れてピクリともしないしず香の身体。 自分は何ということをしてしまったのだろうかと悔やむのはその1秒後だった。
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