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承認薬を巡って
「ドーピングじゃない、ちゃんと承認された薬なんだ! 国際スケート連盟だって認めてる!」
「それはあくまでも、検査を定期的に受けるという前提だろう! その前に医者の診断だっている……それも人間ドック並のな」
ドーピングに薬? 一体何の話をしてるの……? 聞き馴染みのある二人の言い争う声に、私は思わず足を止めた。
透明ガラス扉の向こうには、よく見知った男性たちの姿があった。
一人は他選手のコーチである多田さん、そしてもう一人は、私のコーチ・桐生逸希さんだ。
多分、最初に聞こえたほうが多田コーチで、後から反論したのが桐生コーチだろう。
その証拠に、多田コーチは苛立たしげに頭をガシガシ引っ掻くと、桐生コーチを下から睨み上げた。
「とにかく、もう美羽以外の選手から許可はもらってるんだ。あとは美羽さえ『いい』と言ってくれれば、俺はその承認薬を使わせる」
「おい待て多田! 勝手に独断で進めるな! 俺はまだ許可してない──」
桐生コーチが全てを言い終える前に、扉を開け放った多田コーチと私は対面した。
一瞬、虚をつかれたように目を見張った彼だったが、すぐにその顔はいつもの自信に満ち溢れたものに変わった。
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