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 萌咲の指摘に慶太は険しい表情で考え込む。  会社の利益を考えれば、ホテル事業に有益な会社のご令嬢を結婚相手にするのが良いのだろう。  けれど政略結婚をして、両親のように冷えた家庭で、この先何十年も過ごしたいとは思えない。  結婚というのは、利益だけを優先し、入籍して披露宴を挙げればOKというものではない。その後に何十年という生活があるのだ。  生活を継続させるには、お互いを思いやり、信頼関係を築き、苦楽を共にする覚悟が必要だ。  TAKARAグループの看板を目的とする相手では、楽は良くても苦になったら直ぐに逃げだすだろう。  だからこそ、自分が信じた相手と結婚したいと願うのは、自然な気持ちだ。  それに、35歳にもなった良い大人が、親の顔色を窺い結婚相手を選らぶのもナンセンスな話しだ。  万が一、親に反対されたとしたら、TAKARAグループから離れて自分で事業を起こしてもいい。  ただ、唯一の心配は、沙羅に誰かがプレッシャーを与えてしまう事だ。何かあれば、沙羅は黙って身を引く選択をするだろう。  過去に母親の高良聡子が何かを言った事によって、沙羅が進学先を変えたのだから。    慶太は萌咲の声で思考が戻される。 「ねえ、慶ちゃん。そんなに考え込まないで、何も反対されるとは限らないけど、慎重にねって話しなの。それより、彼女さんを紹介してくれるでしょう?」  そう、何も急ぐ必要はない。時間をかけて慎重に結婚までの道のりを模索していけばいい。 「ああ。そうだな、紹介しよう」  慶太はいつもの顔を取り戻し、沙羅へと足を進めた。  
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