32

4/8

1500人が本棚に入れています
本棚に追加
/322ページ
ホームに降りた沙羅は、振り返り政志へ小さく会釈をした。政志は手を肩まで上げ合図を送るを電車が走り出す。  ホームの上を晩秋の冷たい風が吹き抜けていく。  沙羅は、ふわふわとした気分から、一転、気持ちが落ち込み始めた。  子は(かすがい)ということわざがある。  その言葉通り、夫婦の縁を子供は繋ぎとめる存在。たとえ夫婦でなくなったとしても、子供の父親と母親であるのは揺るがない。  離婚しても、養育費や面会権の関係で政志と連絡は取り続けていくのだ。    慶太と恋人同士になったのに、別れた夫と美幸の事で連絡を取り会うのは、仕方がないとはいえ、後ろめたさを感じる。   付き合い始めの甘酸っぱい時期。  だけど、30代になった今はお互いに抱えているものがある。  自分たちの情熱だけで突っ走るような事は出来ない。   「慶太はこの先どうしたいんだろう……」  TAKARAグループを背負う慶太と自分では、どうしてもつり合いが取れないような気がする。  働き盛りの35歳ともなれば、結婚を急かされているはずだ。  恋人なら良いが、家と家の繋がりが出来る結婚となると、バツイチ子持ちの自分では難しいだろう。  結婚がゴールではないと知っているだけに、その先の事を考えると、ため息しか出てこない。  好きという気持ちだけで、どうにもならない現実が重くのしかかってくる。    沙羅は、ハァーと大きく息を吸い込んだ。  冷たい空気で、頭が冷えた気がする。 「考えてもしょうがないのに、すぐに落ち込むのは悪い癖だわ。慶太を信じて行くって決めたんだから」   
/322ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1500人が本棚に入れています
本棚に追加