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 藤井の家の広い玄関には、三毛の「のりたま」が待ち構えていた。  「おはよう」と声を掛け抱き上げると「ひろし」と「ゆかり」も後を追いかけて来た。足元でスリスリと身を寄せられて、可愛い猫たちの甘える仕草に癒される。 「おはようございます。今日は良いお天気ですね」 「おはよう。秋晴れの気持ちいい日よね」  今日の藤井は、黒のスラックスにからし色のニットで、いつもよりラフな服装、見た目は40代半ば。でも、以前話した内容だと、アラフィフの人を年下だと言っていた。年齢不詳の美魔女だ。 「せっかく天気がいいので、良ければ書斎の本棚の掃除をしようかと思っていますが、触ってもいいですか?」  沙羅の提案に藤井はパァっと笑顔をみせる。 「沙羅さんってば、本当に働き者ね。そうね、埃が溜まるとカビの原因になるからお願い出来るかしら? でも、一日で終わらせる必要がない場所だから無理しないでね」 「はい、ありがとうございます。では、猫ちゃんのお部屋のお掃除を終えてから取り掛かりますね」  さっそく猫たちのおトイレ砂の入れ替えやキャットタワーの埃取りなどに取り掛かる。すると、猫たちが「遊んで遊んで」とハイテンションで周りを跳ねまわる。   「こら、邪魔しないの」 「ねえ、沙羅さん。ちょっと、こっちに来て~」  今度は、藤井からの呼び出しだ。 「はーい、いま行きます」  何かな?と思いつつ、声がした書斎へと足を進める。 「御用ですか?」 「ごめんね。たいした用じゃないんだけど、前にね、沙羅さんに似ている親戚の子のお話したじゃない。それで、本棚にアルバムがあるの思い出したから見せたくなって」 「私に似ているなんて、気になりますね」 「でしょう?」  と、藤井はアルバムをめくり始めた。        
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