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「どうして……」  沙羅は小さくつぶやいて、その写真を食い入るように見つめた。  写真を凝視する沙羅を、藤井は不思議そうに覗き込む。 「何かあったの?」 「あの、この集合写真と同じ物がウチにもあります。ここに写っている子が、私の母なんです」  沙羅が指さしたのは、結婚式の集合写真に写る幼き日の母。  先日の引っ越しの際に美幸と見たばかりだから、間違えようもない。 「うそ……」  藤井は、信じられないと口元に手を当て、沙羅と写真を交互に見比べた。 「この前、娘の美幸とアルバムを見ていて、ちょうど美幸が写真の母と同じ年頃でよく似ているねって、話しをしたんです」 「沙羅さんの苗字が佐藤だから、まさか、親戚だなんて考えもしなかったわ」 「佐藤は離婚した夫の苗字で、旧姓は岩崎でした。それで、母の旧姓は確か……浅田です。浅田瑞穂です」  思いがけぬところで身内に出会えた喜びに、沙羅の鼓動は、ドキドキと早く動き出していた。   「わたしの旧姓も浅田だから間違いないわ……みっちゃんのお嬢さんだったのね。こんな偶然が、あるなんて……ずいぶん前に亡くなったって聞いて」 「はい、残念ながら両親揃って16年前に事故で……。その時は、私も混乱してしまって、父方の親族に連絡や手続きをお願いしたので」 「その頃、海外に居て……訃報も数年経ってから知ったの。お嬢さんが居たことも知らなかったわ。ごめんなさい」  藤井は頭を下げたが、おそらく両親の葬儀の際に、葬儀を取り仕切った父方の伯父が、母方への連絡を怠ったのだろう。 「いえ、結婚に反対されて、駆け落ちみたいに家を出たって聞いていました。母から不義理をしたのだから無理もないです」 「でも、こんなところで会えるなんて嬉しいわ。沙羅さんを始めて見た時から、なぜか他人のような気がしなかったのよね」 「私も初めて藤井様にお会いした時に懐かしい気持ちになりました」
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