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高級旅館の離れの部屋は、世間から切り離されているように思えた。
掃出し窓から見えるのは、檜木の香りが漂う源泉かけ流しの露天風呂。その先には竹林が広がり、緑の葉の合間から淡い光が漏れている。
「沙羅」
名前を呼んだ男の広い胸に枝垂れ、沙羅は甘い息を吐き出した。呼吸と共に上下する浴衣の合わせを縫うように、男の節のある手が忍び込む。
まろみのある胸の先端に男の指が触れ、ピクッと体を震わせた。
瞬間、男の指が離れようと動く。けれど、沙羅は浴衣の上から男の手を押し留め、熱の籠もった瞳を向ける。
「お願い、止めないで……」
「後悔しない?」
「今、止めたら後悔しそう」
儚げに微笑んだ唇に男の唇が重なった。上唇を喰まれ、口づけが深くなる。男の舌が紗羅の舌を追いかけ、絡め囚われる。
ねっとりとした刺激に、体の芯に熱が溜まり、火が灯り出す。
浴衣の合わせは男に乱され、熱い手のひらが胸を包み込み、やわやわと甘い刺激を与えられる。
節のある指が動き、その指の合間で、白い乳房が形を変え、まるで別の生き物のように蠢いていた。
沙羅は自分に触れている男のことだけを考えようと、濡れた瞳で男を見つめる。
切れ長の綺麗な目、スッと通った鼻梁、そして、自分を惑わせる唇。
その唇が、官能を引き出すように沙羅の首筋を伝う。
熱い吐息を漏らしながら、目の端に映る畳の上に敷かれた布団が、酷くいやらしく感じられた。
布団に組敷かれ、下から男を見上げる。
そして、ねだるように手を伸ばした。沙羅の細い指先が耳朶から喉仏を這い、男から伝わる鼓動を確かめるように厚みのある胸板へと動く。
世間とは切り離されたこの場所で、束の間の幸せを味わい女に戻る。
聞こえるのは、蝉の鳴き声と衣擦れの音。そして、鼻にかかった甘い声。
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