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透明人間
ツヨシは自分の姿が見えるようになったことに気づいて、慌てて病室着を羽織った。
「キヨシもタカシもベッドにいるんだ。」
「見えなくなったことに気づいたので慌てて医者に申し出たら、誰にもバレないように素っ裸で生活するように言われたよ。」
「食堂は二つあってな。見えなくなった連中はもう一つの食堂で次の治験薬を飲んでから食事をする。でも、誰も見えないからフォークやナイフが勝手に食事をしているみたいで面白かったぜ。」
「今俺は見えているな。これ、次の治験薬が効いたってことだな。」
担当医師が病室に入って来た。
「ナオトさん、あなたはいますぐすべての衣類を脱いで、私についてきてください。血液検査をしなければいけないのですが、特殊な装置を通さないと血管も見えませんのでね。」
そういわれて、担当医師について行って、採決後、その日のお昼ご飯を食べに行こうとすると、別の食堂に案内された。
そこにはツヨシが言ったように食器だけが宙に浮いて食事をしている。食べ物は体に入ると見えなくなるようだ。透明になっているだけで実体はなくなっていないことが確認できて直人はほっとした。
年齢が上の者ほど、早く透明になるようだ。
ツヨシは一か月で透明になって、そこから次の治験薬を飲んで3か月間は透明でいたってことだよな。
ツヨシはこの後、一週間ほどで治験を終えて退院していった。
その後、治験が始まってから2か月で消えたキヨシは7か月後に身体が見えるようになった。そうして一週間ほどで治験を終えて退院していった。
戻る時間は年齢が低いほど遅いようだった。
3か月で消えたタカシは12か月後に身体が見えるようになった。
つまり消えてから9か月後にようやく体が見えるようになって、治験を終えて退院していった。
その計算で行くと直人は4か月で消えたので11か月後の15か月後には体が見えるようになるはずだ。予定していたよりも長い治験生活になったが、指折り数えて、11か月たつのを待っていた。無事退院すれば大金持ちだ。
18歳の治験者は直人だけだったようで、今は元の食堂で病室着も着て食事をしている。他に誰もいないので、透明であることを隠す必要もなくなったのだ。病室着だけがヒラヒラと動き食事をする様を、製薬会社の担当者と直人の担当医師が衝立の影から見ていた。
医師「どうしましょうねぇ。とりあえず薬なしでどれくらい透明でいられるのか確認するために今は偽の治験薬を飲ませているのですが。」
社員「うん。あまり大勢だと治験費用が掛かりすぎるから他の人には退院してもらったけどね。彼、一番健康体だったし、治験の一か月前から食事管理してより理想の治験者だからね。色々なパターンを試したいよね。」
医師「とりあえず、11か月で見えるようにならなかった時の言い訳を考えておきましょう。良いじゃないですか。彼にとっても治験が長くなれば報酬が大きくなるのですから。」
社員「そうですねぇ。彼は身寄りもないようだし色々なデータをとらせてもらいましょう。たとえ逃げても透明では誰にも訴える事は出来ないので逃げ出すこともないでしょうしね。」
直人の身体が見えるようになるのはいつのことになるだろうか。
うまい話には裏がある事を覚えておきたいと思う。
【了】
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