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「そりゃそうだ、食料は米以外全部自給自足だ。毛皮を売って月に5万ほどになるが電気代や石油代、電話代が2万、1万ずつ貯金して残り二万でこの車の経費だ。それが倍になれば6万ずつ貯金出来るべな。1年で72万、5年で360万10年で720万。俺は42だから最低でも30年は働ける。おらのじいさんは85まで山に出ていたからな。15年で・・・・」
蓮田は頭を捻りながら30年までどれくらい貯金出来るか計算している。
「蓮田さん、危ない」
計算に夢中になっていて運転が疎かになった。農道を横切る猫を轢いてしまった。二人は飛び降りて車の下を見た。三毛猫だった。
「ありゃ、この猫は村長のとこの猫だべ」
蓮田が引き摺り出した。頭が潰れている。
「猫なんだからもっと俊敏に動いてよ」
桜木は運のなさを嘆いた。
「どうすっぺ?」
「荷台に積んで幌をかぶせてください。二人が黙っていれば誰にも知れませんよ」
「罰が当たるぞ猫だって」
「大丈夫ですよ。蓮田さん、絶対に喋らないでくださいよ」
蓮田は仕方なく知らん振りして走り出した。
「ここで降ろしてください」
「ここでって、猫どうすんだ?」
「そんなこと知りませんよ、蓮田さんが轢いたんですからご自分で処分してください。それじゃ」
「それじゃって、おめえにここまで乗せてくれって頼まれたから、それでなけりゃこの道は通らなかった」
桜木の後ろ姿に独り言をぶつけている。蓮田は自宅に戻り轢いた猫を庭に埋めた。
「ごめんよ、化けて出ねえでくれ」
埋めた上に桜の苗木を植えた。蓮田の両親は早死にして祖父に育てられたがその祖父も3年前に他界した。先祖の墓が庭にありその並びにさっきの猫を埋めたのである。畑仕事をして川に釣りに行く。酒は自家製どぶろく、煙草も自家製キセルで吸っている。囲炉裏に座りキセルを咥えた。車の中で勘定した貯金の続きを始める。30年で2700万になる。テレビで偉い人が言っていた。老後に2000万が必要だと。蓮田はそれをはるかに超える金額に興奮して思わずキセルを囲炉裏の枠で叩いた。
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