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輪廻『法螺』
台村の村議会選挙が始まった。候補者は3人。矢田部昭、下園玲子、桜庭健司が二議席を争う。台村は18戸で人口45人、産業は農業が7割、林業が2割。この町に工場は無いし学校も無い。八百屋は商売にならない。ほとんどが自給自足でなんとかなる。魚は行商が週に二度来る。鮮度が悪く干物以外は誰も買わない。村役場に萬屋があり日常品は選ばなければ何とかなる。貧しい村だが贅沢をしなければ飢えることはない。川には鮎が上がり池には鯉がいる。鯉を三匹釣れば全所帯に回ると言っても過言ではない。
「町民の皆様、この矢田部が当選した暁には、村の真ん中に2車線の道路を作ります。鯉の養殖を村の産業とします。そのためには工場が必要です。工場を建設すれば人が必要になります。どうです、みなさんも現金収入が得られるようになり、何と言っても村が潤います」
矢田部昭51歳。前村長の長男である。元々この地区の庄屋で力がある。家業は土建屋で、役所の発注はライバルがいない。自動的に矢田部建設に引き落とされる。
「おはようございます。下園玲子でございます。私はこの村を街にします。全ての連絡をコンピューター化します。ラインで連絡を取り合うことにより電話代が無料になります。役所のマイクロバスを無料にして皆様に自由に使っていただきます。ガソリンが高くなり18戸のそれぞれが自家用車を使ったのでは不経済だと思いませんか?町長の足代わりに使われていたんでは一銭にもなりませんが、村民みんなで使えば有意義ではありませんか」
下園玲子42歳。この村に移住してきて今回の選挙に立候補した。婦人連の23名が応援している。全員が下園に投票すれば当選間違いないが、男達は矢田部を応援しており、夫の言いなりになるケースが多い。よって投票は蓋を開けなければ分からない。
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