輪廻『法螺』

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「ありがとうございます」  桜庭は荷台に乗ろうとした。 「尚更目立つべ。助手席に乗りんさい」  エアコンが効いている。 「いいですねえやっぱり車は」 「あんた、一言言っておくが、降りた方がいいんでないかい」 「今乗ったばかりです」 「車でねえ、選挙に決まってるべ」 「蓮田さん、私と一緒にこの村を日本一幸福な村にしませんか」 「はあっ」  桜庭は話し始めた。 「この村ではお金がなくても生きて行けます。僕自身3年間の実績があります。蓮田さんも猟師でしょ、畑もある。酒も自家製。ただ米が不足します。煙草だって作れます。お茶も、牛乳も、肉だって野鳥や猪に鹿、魚は淡水魚だけど食い切れないほどいる。みんなそれぞれの得意を生かして分け合い生活すればいい。こんな環境のいい村で生きていける幸福を感じながら死んでいくんです」  桜庭は夢をフロントガラスの向こうに拡がる自然に向かって語った。 「そったらこと言ってもたんねえもんがあるべ。服だとか靴だとか、老眼鏡もそうだ。金がなきゃどうにもならねえさ」 「金は入ります」 「どうやって?村には現金を稼ぐ産業がねえ。矢田部さんが言うように鯉の養殖工場を建てる以外にねえべ」  桜庭は笑顔で首を横に振った。 「あります。全員が生活保護を受けるんです」  蓮田が驚いて車輪を轍に嵌めた。車が跳ねて天井に頭をぶつけた。 「おめえは何てこと考えてんだ。そんなこと出来るわけねえべ」 「出来ます。全員が持ち家だから満額はもらえませんが一所帯に10万円は出ます。まあ村長宅は事業しているから除いて17所帯に毎月10万ずつ入ります。10万あればどうです。今までの暮らしで充分じゃありませんか?」
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