輪廻『法螺』

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「よし、桜木だ」  思い立ったが吉日、蓮田はどぶろくを抱えて猟師仲間に知らせに行く。 「俺は30年も稼げねえけど25年ならいくらになるべ?」  猟師から猟師に伝わり台村に暮らす11人の猟師全員が桜木に投票することに決めた。 「間違いねえべな?」  猟師の長が再確認した。 「間違いねえ。俺とあいつには共通した秘密がある」  村長宅のペット猫を轢いたのは自分でも隠すよう指示したのは桜木である。 「俺はもう80だ、5年程長生きさせてもらうべえ」  猟師の長が舌を回した。この話は猟師から百姓に伝わった。百姓達は村長が経営する土建屋で月に2~3日使ってもらう。それでも貴重な現金収入である。 「土建屋で稼いだって月に3万ほどだべ。毎月10万が国からもらえるんだぞ。村長がその手続きをしてくれるんだ。間違いねえべ。毎月10万だぞ、おめえはまだ若いから40年は動けっぺ、40×12カ月×10万だぞ。計算してみろ、莫大な金が転がり込んでくるんだ。生活は何も変わらねえ、これまで通り百姓して自給自足をしていればいいんだ」 「と言うことはこれまで通り生活していて、その他に10万が入ってくるのか?」 「頭いいべ、そういうこった」  百姓の切り崩しも容易であった。猟師11人、百姓12人、合わせて23人となり過半数をかろうじて超えた。蓮田はこれで安心した。そして選挙前日の晩だった。 「おめえだべ俺の玉を轢き殺したのは?」  猟銃を構えて飛び込んで来たのは前村長の矢田部虎吉であった。 「俺は知らねえ」 「嘘こくでねえ。証人がいる」 「知らねえのに承認なんていねえだろう」 「とぼけるか、桜木だ。おめえの車に乗り公会堂まで来る途中で俺の玉を轢いた。どうしてそん時謝りにこなかった。あの玉は一人散歩が好きで道路にも出て行く。飛び出したに違えねえだろう。すぐに謝りさ来れば情も通じる。違うか?」  一部の落ち度もない、矢田部の爺様の言う通りである。それに黙っていようと約束した桜木である。それがぺらぺらと詳細を話していた。
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