あなたの体臭が嗅ぎたいです~可愛い彼女は匂いフェチ~

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 花火大会会場は大きな盛り上がりを見せていた。  そこらじゅうごった返す人、人、人……。  正直、神楽坂さんと腕を絡ませていなければ離されていたかもしれない。  それぐらい混んでいた。  そうか、彼女はこれを見越していたのか。 「すごい人だね、森下くん」 「うん、そうだね。でもそれだけすごい花火ってことだね」 「おお、なるほど! そういう見方もあるか!」  なんか感心されてしまった。  底辺高校の僕の言葉に、名門女学院のトップエリートである彼女が納得する。なんだか気持ちいい。 「離れないようにしなきゃね」 「大丈夫だよ、離れたら匂いで探すから」 「あはは、なにそれー」  幸せだ。  ほんとに幸せだ。  神様、僕はこんなに幸せでいいんですか? 「じゃあ私も森下くんと別れたらクンクンしながら探すね」  人混みの中クンクンと鼻を鳴らす彼女の姿を想像して笑った。  花火は予定時間を少しオーバーして始まった。  見物客が多すぎて準備に手間取ったのだろう。  それでもどこからもクレームは入らなかった。  みんな、事情は察しているのだ。  そして花火はそれまでの遅れをチャラにするほどの素晴らしいものだった。  一筋の光が一直線に真上に上がると大きく花開き、ビリビリと振動と共に音がやってくる。  まさに間近で見る花火の醍醐味。  神楽坂さんは一つ一つの花火が上がるたびに歓声をあげていた。 「すごいねー、森下くん!」 「うん、ほんとにね」 「私、こんな間近で花火見たの初めてだよ」 「そうなんだ」 「素敵すぎる……」  言いながら、僕の首元に鼻を突きつけてくる。  ここで人の匂い嗅ぐのやめてくれるかな? 「花火はすごいし、匂いも最高だし、言うことなしだわ!」 「そ、そりゃよかった……」 「森下くんと出会えてなかったら、きっとこんな幸せな気分味わえなかったよ。ありがとう、森下くん」  それはこっちのセリフだよ、と言いそうになったけれど、まわりの視線が怖かったので黙っていた。  代わりに、力強く彼女の手を握る。  彼女もそれを察してくれて「えへへ」と嬉しそうに笑った。
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