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僕にとって高校生活は退屈そのものだった。
当初はどんなバラ色の高校生活が送れるのだろうと期待していたのだけれど、入学して一ヶ月でバラ色どころか黒色だと確信した。
まず品がない。
クラスの誰もが自己主張の強い髪型をし、思い思いの色に染め、さらには禁止されてる短ラン&ダボダボズボンをはいてくる。中にはパーカーにトレーナーパンツというダサダサの格好で登校してくる生徒までいる。
ダラダラと歩きあくびをしながら登校してくる姿を見ると何しに学校に来てるのだろうと疑問に思う。
そう、僕の通う高校は端から見てもわかるほどの偏差値低めの最低高校だった。
もともと僕自身あまり頭がよくなかった。
家から徒歩で通えて、なおかつ僕が入れる高校といったらここだけだったのだ。
夢も希望もない選択肢だったけれど、ここまでひどい高校とわかっていたらもう少し頑張って勉強して電車に乗って3駅くらいのちょっとはまともな高校に入学すべきだったなと思う。
僕にとって今の高校は最低最悪の場所だった。
そんな僕に変化が訪れたのは、晴れやかな青空が広がる五月のことだった。
いつものように憂鬱な気分で学校に向かっていると十字路の角から一人の女子生徒がやってくるのが見えた。
制服からして反対方向にある名門女学院の生徒だろうか。とても綺麗な子だった。
長い髪をさらりとなびかせ、両手で大事に通学鞄を持ちながらしずしずと優雅に歩く姿はさすが名門お嬢様学校の生徒という感じがする。
黒くて艶のある髪の毛が朝日を反射させてキラキラと輝き、まるで天女のような美しさを放っていた。
少し憂いを帯びた表情が背中をゾクリとさせる。
彼女は僕にちらりと視線を向けると、何事もなかったかのように横を通り過ぎていった。
僕も黙って彼女の脇を通り過ぎる。
瞬間、ものすごく甘くて爽やかな香りが鼻を突いた。
フェロモンの匂いとでもいうのだろうか、いまだかつて嗅いだことのない|蕩(とろ)けるような匂いだった。
その匂いに、僕は思わず立ち止まってしまった。
なんて……。
なんて良い匂いなんだろう。
脳天を突き抜けるかのようなその芳しい匂いは、鬱屈とした僕の心を晴れやかにするほど強烈なものだった。
振り返ると彼女もまた振り返ってこちらを見ていた。
ほんの一瞬、目と目がかち合う。
けれども彼女はふいっと目をそらして、そのままスタスタと歩き去っていった。
僕はそれを黙って見送るしかなかった。
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