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その言葉に頭の中の何かがプツンと切れた。
「あ、あの! 僕もお願いがあるんですけど!」
「はい?」
「あなたの匂いも嗅がせてください!」
「え?」
「失礼します!」
僕は彼女が逃げるより一歩早くその華奢な身体をがっしりと抱きしめ、首筋に顔を近づけた。
「ひうっ!?」
小さく悲鳴を上げる彼女の首筋から、その体臭を一気に鼻に吸い込む。
朝洗ってないと言うだけあって、彼女の首筋からはムワッと濃厚な汗の匂いがした。
けれどもそれは不快でもなんでもなく、爽やかな青春の香りだった。
「い、いや……ちょ……やめて、くだ……さい……」
嫌がる声がさらに心地いい。
「やっぱり……朝のシャンプーの香りもよかったですけど、あなた自身から発せられる匂いのほうが好きです」
「わかりました……わかりましたから……」
彼女は顔を赤らめながら僕の腕から逃れようとする。
そのたびに濃密なフェロモンの香りと芳醇な汗の匂いが鼻腔を刺激するものだから、たまらない。
「ああ、なんて香しいんだ。僕はいまだかつてこんなに素敵な匂いをこんな近距離で嗅いだことがない」
僕の言葉に、彼女の身体からふっと抵抗する力がなくなった。
「ほ、ほんと……に……?」
「はい。できれば一生、嗅いでいたい匂いです」
我ながら何を言ってるんだと思うけど、彼女は嫌がるふうでもなく「ふふ」と笑った。
「嬉しい。私も……一生、あなたの体臭を嗅いでいたいです」
そう言って、胸元に顔をうずめる。
僕はそんな彼女の髪の毛をそっと撫で、頭の匂いを嗅いだ。
まさかお互い臭いフェチだったとは。
真夏の早朝。
汗ばむ暑さの中、僕らはいつまでもお互いの匂いを嗅ぎあっていた。
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