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1.ディスホープ
4月7日
「幽谷志燃」
「…はい」
この春俺は高校一年生になった。窓際の一番うしろの席。先生の書類上のミスで座席表に入れ忘れられたらしい。
「枯木友陽」
「なぁ、亜美、ここよくね?」
「えぇ、鎌倉は結構遠くない?」
「同じ関東だから大したことないって」
「ゆーひのバイクに乗せてくれるならね」
「しゃーねぇ」
入学初日からよくやるよな。枯木友陽と坂田亜美は入学式にも遅刻してやってきた。枯木彗も坂田亜美も派手な見た目をしていて、まるで一昔前のヤンキーとギャルのようだ。生徒はおろか、先生にも怖がられているようで、誰も彼らに話しかけない。
俺は俺で、誰からも話しかけられない。陰キャと言ってしまえばそれまでだか、それとはちょっと違うと思う。昔から勉強も運動もできないし、趣味と言えるものもない。特段取り柄もないから話しかけづらいのだと思っていた。だがそれだけでは済まなかった。勇気を出してクラスメイトに話しかけても、授業で分からないところを先生に聞きに行っても、無視されることが増えてきている。最近は家族とも話ができていない。まるで俺は見えていないような、ここにいないような、そんな感じがする。今日入学したこの高校でも、殆どの人に俺は見えていないようだ。段々と影が薄くなっている。
近頃寝る前に思うことがある。いつか俺はすっと消えてしまうんじゃないか、今日寝たら、俺はいなくなるんじゃないかと。勿論不安で寝付きが悪くなるときもあるが時々、心の何処かで期待して、落ちるように眠りにつく。
「では、今日はこれで終わりです。皆さん、新しい環境で戸惑うこともあると思いますが、先生や新しくできた友達がきっと助けになります。一度きりの高校生、皆さんにとっていい時間を、皆さんで、作り上げていってくださいね。では、学級委員、挨拶をお願いします」
「はい。起立…礼」
「さようなら」
友達………。
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