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11.燃え滾る意志を
「説明はできないんだけど、分かるんだ。俺は誰かを守るために生まれてきたんだって。その時、苦しい思いをしても、きっと強く生きていけるんだって」
「志燃…」
「俺、生きてくことにするよ。生きて、沢山の人に出会って、大切を増やして、そうやって幸せになれる気がするから」
「ららら〜〜」
「寂しくなるなぁ、なんだかんだ小僧とも沢山過ごしたからなぁ」
「えぇ、でも十六歳になる前にしっかりと決断できてよかった。あなたは誇りを持って生きていけるわ」
「ら〜〜」
そうだ、ララ。俺は生きることを選んだから、きっと施設で育つことになるのか。心配だ。もし一緒に居られたらいいのに…
「あ!ララ、俺と一緒に過ごさないか?」
「るるら〜?」
「確かにそうね、この館でじゃなくたって、志燃はララを守っていけるはずだわ」
「これで皆安心だな」
「らら〜〜〜!」
「あ、でも手続きとか、俺みたいな高校生が保護者になれるの?」
「そこら辺は大丈夫よ。元々は世界が中途半端な存在を創り上げたんだもの。志燃たちの都合がいいように融通を効かせられるわ。さも元から世界がそうだったかのように」
「なら、よかった」
「とすると、小僧とララが兄妹とかだと良さそうだな」
「俺と、ララが、兄妹…」
「らるら〜〜!」
「気に入ったってさ」
「志燃、あともう一つ、大切な選択が残っているんだけど」
「……?」
「名前よ。unnamedは自分で名前を決められる。シネンという名前はまだ実際にあなたの名前にはなっていないわ」
そうか、この名前も、もし多笑嬢たちの推測が正しければ、酷いものなんだ。変えられるなら、自分の大切を込めた名前にしたっていいんだよな………。でもやっぱり、
「いや、俺はこの名前で生きてくよ。志燃。響きは悪いけど、字の意味を考えると、大切にしたいなって。志を燃やすんだ。強く生きていけそうだろ」
「ふふ、そうね」
「それに、多笑嬢と舞人とララに出会ったのは紛れもない、幽谷志燃だ。この思い出を残していたいから」
「小僧、お前、泣かせんなよ」
舞人の目が動いてるところは見たことがなかったが、よく見るとウルウルしているようだ。
「ら〜らるりら〜」
「ねぇ、志燃、ララにも名前をあげてくれない?」
「俺が?」
「ええ、あなたにお願いしたいわ。ララってまだ漢字が当てられてないもの」
そうだな。ララは歌って俺たちを楽しませてくれる、きっと今後もこの歌で誰かを幸せにするだろう。そうだ!
「音楽を楽しむと書いて、楽楽」
「らら〜〜〜〜!!!」
「ララにぴったりね。ね、楽楽?」
「らら〜〜!!」
「小僧、なかなかセンスあるな」
よかった、気に入ってもらえて。
「志燃!ここからはあなたの世界が広がっているわ。館の中にいたら知ることのできない沢山の人々に出会って、沢山のことを経験してね。そして、その人々の大切を守ってあげて」
「うん」
「もう会えないけど、きっとどっかから見守ってるさ。じゃな!」
「じゃあね」
「るるら〜〜」
もう日は落ちて空が薄っすらと赤みを帯びたグラデーションになっている。いよいよ俺は館を後にした。
あ、そうだ、この橋もう崩れかけだったな。でも、今後俺がこの橋を渡ることはない。最後の一仕事、頼むぞ。
「楽楽、落ちないように急いで行くぞ!」
「らりりら〜」
遂に橋は崩れて、もう渡れなくなってしまった。
「危なかったな」
「ん〜〜」
俺の家に着いた。多笑嬢が大丈夫とは言っていたけど、本当に楽楽がもう俺の家族なのだろうか。
「……ただいま」
「ただいま!!!」
「おかえりなさい」
「え、楽楽、喋った?」
「志燃兄ぃ?どうしたの?」
楽楽は、俺の妹になったらしい。というか、喋れるようになっている。これも世界がやったことなのだろうか。
「ご飯できてるからね、早く食べなさい」
「うん!」
「……あぁ」
なんだろう、家族って少し暖かいな。
「じゃあ、おやすみ、志燃兄ぃ」
「おう、楽楽、おやすみ…」
家には新しく部屋ができてそこは楽楽の部屋となっていた。扉が開いたときに少し覗くと、前からそうであったかのように少し散らかっていた子供部屋が広がっている。
俺の部屋は相変わらずの光景、殺風景で見慣れたものだ。今日まで、俺は人として生きていなかった。その名残が、ここにも残っているんだ。俺はベッドの上に寝転がった。マットにすっと体が沈み込む。
俺は今夜、明日を生きるために眠りにつく。
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