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2.イージーディール
7月20日
「なぁ、幽谷、ちょっと頼まれてくんない?」
一学期の終業式が終わって、俺は一人帰ろうとしていた。
「枯木友陽…君?」
「友陽でいい、ゆうひ。単刀直入に言うとさ、心霊写真撮ってきてほしいんだよ」
「なんで俺、が?」
「いや、お前の名字幽霊の幽の字入ってるじゃん。幽谷なら心霊写真の一枚余裕だと思うだろ」
「え、あぁ」
「ここだけの話だぞ。俺割りと幽霊とか信じてて怖いくせに亜美に強がっちゃったからさ。でも今更あとに引けねぇんだよ。な?」
噓吐いて自分の手柄にしたいってことか。
「でも俺、心霊写真なんて撮ったことないし、そもそも俺が撮って坂田さんはそれでいいの?」
「あぁもう!そうだな…お前友達いないだろ」
「え…」
あまり期待はしていなかったが、やはり友達はおろか、ろくに人と話すことなく一学期は終わってしまった。
「俺が友達になってやるよ。ほら、行事全部でぼっちだったの知ってたんだぞ。ありがてぇだろ!」
友達…。こんな不良みたいな奴の頼みを受けて、取引みたいに友達になるなんて。それで…いいのか……。
「てゆうかあれだ。俺らもう話したから友達だろ」
「……!」
「なぁ、頼んでもいいか?」
「………うん」
「よしっ!助かるわ」
「それで、心霊写真ってどうすればいいの?」
「あそこに山あるだろ?そこで心霊写真撮れるって噂あるんだよ」
学校の周りはそれなりに開発されていて住宅街が広がっているが、川を一つ超えると荒廃して古びた、小さな町がある。その町を抜けた先に緑がよく茂っていてどことなく厳かな山が起こっている。入学当初も今のように青々としていたから少し不思議に思っていた。
「でも、山よりもあの灰色の館の方が出てきそうじゃない?」
あの山の中腹にはぽつんと館が建っている。昔火事があったのだろうか、遠くてはっきりとは見えないが、外側は灰のような色をしている。
「ゆ〜ひ〜今日は海行くって約束したでしょ〜」
「やべぇ、亜美だ。あぁ!すぐ行く!」
「忙しそうだね」
「あぁ、すまん。じゃあまた夏休み明けな。いい感じの写真、頼んだぜ!」
「ゆ〜ひ〜〜」
「だから今行くって」
友陽は駆け足で行ってしまった。坂田さんに頭が上がらないらしいな。
「友達…」
人と話したのはいつぶりだろう。友陽は少し苦手なタイプだと思っていたけど。案外、楽しかった。
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