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6.ららら
7月29日
昨晩は一週間振りの食事だったはずなのに、何も喉を通らなかった。一週間振りに寝たはずなのに、一睡もできなかった。今日は何をしようか。孤独の中、何もしないで過ごすのには慣れていたはずなのに、何かしないとどうにかなってしまいそうだ。
赤い館……。俺は昨日、本当の楽しいを知った。無我夢中になって、それ以外のことがどうでも良くなって、永遠にこの時間が続けばいいのにと思う衝動。もし俺が、死ぬ選択をしたとき、きっと生きているときよりも生を実感し、もう終わりを望まなくなるだろう。そのほうがきっと、幸せだ。
あの橋を再び渡った。どうしたらあの館に辿り着けるのかは分かっていない。前に来たときは、確か歌声を聞いた気がする。その後気がつけば館の目の前にいたんだ。そうだ、歌声を探そう。
山に入って耳を澄ますと、木々が擦れあう音が聞こえる。鳥が語り合う声が聞こえる。朝露が落ち葉にぶつかる音が聞こえる。
あの歌声が聞こえる。
歌声は上の方から聞こえてきた。きっとそっちに館があるはずだ。
「ららら〜らりたるりら〜」
木々を抜けた先には、少女がいた。倒木に座って歌っていた。
「っ………」
「あ、待って!」
俺は少女を追いかけた。
「うわっ!」
木の根に引っ掛かって転んでしまった。あれ、少女はどこに…。顔を上げると、あの館に入っていく少女が見えた。少女は館に住んでいるのか。とするときっと少女も…。
俺は館の扉をそっと開いた。
「ララ、館の外で歌うのは控えなさい。館が風に溶けてしまうと言ってるでしょう」
「ら〜〜〜」
「もう、しょうがないわね」
「お、小僧じゃねぇか」
「あら、志燃。ここに来たってことは…」
「その、まだ、決めきれてないんだけど、この夏はここに居たいなって」
「そう、分かったわ」
「るるら〜?」
「あぁ、ララ、志燃よ。前も一回ここに来ているの」
「…その少女は?」
「紹介するわね。この子はララ。5年前にここにやってきたの。ララもunnamedなのだけど、今の志燃の状態とだいぶ近いわね」
「ららら〜〜」
ララは8歳くらいのように見えるけれど、なぜか言葉を話さない。けど、ララの歌を聞くと、自ずと何が言いたいのか分かる気がする。
「よろしく、ね?」
「ふふ、志燃もララが何いいたいのか分かるのね。よかったわ」
「らるらりら〜〜」
「ではでは、今日は皆で踊ろうか」
「舞人、頼んだわ」
「おう!」
この感覚だ。いつまでも踊っていられそうで、とても晴れ晴れとして、これがやっぱり、楽しいってことなのだろう。
「ら〜らる〜らり〜らるら〜」
ララは歌いながら踊っているようだ。ララの歌に合わせてみたいな。えっと、いち、に、さん、し、いち、に、さん、…。こうだ!気持ちいいな。
「ららら〜〜!」
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