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8.百鬼夜行
9月1日
二学期が始まった。俺はやっぱり、死ぬことを選ぼうと思う。結局生きて楽しい経験を思い返すことができなかった。ただ、多笑嬢には選べると分かった上で両方とも経験しなさいと言われた。誕生日が来るまでは基本生きる方で過ごして、行きたくなったら館に行くことにした。
友陽に渡す心霊写真は舞人に協力してもらって本当に霊を写すこととなった。友陽は始業式も遅刻して来るのだろうか。未だ姿が見えない。
「幽谷…はよ………」
教室の後ろのドアから入ってきて俺に声をかけた男は、髪がボサボサで隈も濃かったが、友陽のようだった。
「え?友陽!?どうしたの?」
「あぁ、亜美に…、振られてさ…」
「え、そんな、あんなに仲良さそうだったのに…」
「年上の男ができてそいつについていくんだと…」
「…それは、残念、だったね…」
「あぁ、マジ悔しいわ」
なんと言葉をかけていいものか。
「あぁ、そだ、幽谷、心霊写真撮ってきてくれたか?」
「え、あぁ。でも坂田さんに見せるためにって」
「けど、せっかく幽谷がわざわざ撮り行ってくれたんだし、見たいじゃん」
「なら、これ」
画面の中心にダンボール箱があって、そこから舞人が少しだけ顔を出している写真。皆が協力してくれたし、雰囲気は出てると思う。
「なぁ、幽谷、どこに写ってるんだ?」
「えっと、ダンボールの影からちらっと…」
友陽は見つけたようで顔をしかめて写真をじっと見つめている。
「お前、まさかマジで?」
「俺も夢かと思ったんだけど、あの館に行ったとき幽霊たちが視えてきて、一緒に踊ったりした感じがしてさ」
「………ふーん、すげぇな」
unnamedの話とかはあまり普通の人には言っちゃいけないかもしれないからこんなところにしておこう。
「そうだ、幽谷、ちょっと今から遊び行こうぜ」
「え、でも学校が…」
「別にこっそり行くぶんにはバレねぇって」
「…でも」
「失恋の痛みは友情で癒やすんだ!ほら、行くぞ!」
友陽に手を引かれるままに、俺は気がつけば海まで来ていた。
「もう九月だけどあっちぃからな、やっぱ海っしょ。ん〜風が染みるわ」
「海なんて初めて来た…」
「ははっ!お前ずっとぼっちだからな」
「…うるせぇよ」
「まぁ、今のお前には俺がいる。一緒に沢山遊ぼーぜ!」
「あ、あぁ」
「じゃあ行くぞ!来い!」
「待ってって、うわぁ!」
俺は制服のまま海に投げ出された。冷たい水で濡れた服が肌に引っ付く。ひんやりとして、気持ちいい。
「やったな!友陽も道連れだ!」
「おい、待てよっ!」
そんなこんなで俺は学校のある日は夜まで友陽と遊び散らかして、休日には皆に会いに館へ行くようになった。
俺は揺らいでしまった。
生きていたって心躍る体験はできてしまう。死んだって多笑嬢や舞人のように踊って楽しくいられる。多笑嬢の言う通り、どちらを選んでも幸せになりうるのかもしれない。ただ、今は、この生活に浸っていたい。
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