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9.フェアウェルレジスト
10月30日
なあなあに過ごしているうちに、十六歳の誕生日が翌日に控えることになった。生きても死んでも居場所がある。今まではなかったそれがこんなにも自分を縛り付けるとは思っていなかった。どちらか選ぶことができる気がしない。
今日は友陽と一緒に明日のハロウィンに向けて仮装の衣装を買いに来ている。
「友陽はドラキュラとかヴァンパイアとか似合うんじゃない?」
「なんだ?血ぃ吸う奴らじゃねぇか。志燃、ちょっと首貸せよ」
「あはは、やっぱりぴったりだ!」
「煽ってんのかてめぇ!」
「俺はおばけになって逃げようかな〜」
「待てよっ!」
やっぱり、きっとこれも楽しいと言えるだろう。いや、間違いなくどこにいたって楽しくいられるのかもしれない。
「あ、そうだ。志燃、悪ぃけど今日用事あるから先行くわ」
「え、俺は一緒じゃねぇの?」
「だめだ、秘密ってやつだ」
「ふーん、じゃあ、またね」
「おう」
明日も友陽といる選択もまだできてないくせに、またね、なんて言ってしまった。今、間違いなく俺の中心は俺にあって、俺が選んだ全てで、俺が決まる。すごく、怖い。もしこの先、何か後悔したとき、きっと恨むのは今日の俺になるんだ。
とりあえず、館にも行こう。一旦家に帰って、この仮装は置いていかなきゃ。
じゃあ、行こう。もしかしたら、今日館で過ごす皆と、これからずっと会えない選択だってあるんだ。この時間を大切にしよう。どちらの選択をしても、後悔はしたくない。しっかりと考えないとな。
「ん〜〜〜わ〜〜〜」
この声は、ララの声だ。こんなところまで来るなんて。
「ララ、どこだ〜〜!」
「わ〜〜」
「いた!ララ、どうしたんだ?」
「ん〜〜ん〜〜〜きゃ〜〜」
ララの声がいつもとは違う、何かに怯えてるようで、震えている。のびのびとして美しいあの声ではない。きっと館の皆に何かあったんだ。
「ら〜〜〜わ〜〜〜〜!!!!」
「……っ!」
伝わってきた。すべてが。今、多笑嬢と舞人が人ではない何かに襲われている。
「ララ、助けに行くぞ!」
「ら〜!」
とりあえず、向かおう。でも、人ではないものに、どうやって抵抗すれば……。
「ん〜〜?」
そうだ!人以外は火を扱えない。俺にできることは、これだ!
「ララ、ちょっと待っててくれ。コンビニでライター買ってくるから」
「ららる〜」
俺はライターをポケットに入れて館へと走った。
「きゃ〜〜〜!」
「ララ?!」
橋を越えようとしたとき、ララが躓いてしまった。もうだいぶ橋は崩れかけている。
「ララ、背中に乗れ、急ぐぞ」
多笑嬢、舞人、どうか無事でいてくれ。
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