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「ヨミ、調子はどうだ?」
外気にあたっていた俺に、村の長老が声をかけた。
俺は長老の孫だ。長老によると、俺は数年前に行方不明になったらしい。それが、数日前に森の中で大怪我をして倒れていたのだそうだ。俺は記憶をなくしており、長老達が看病をし、俺の素性も教えてくれた。
この村には陽が差さない。昔、一人の村人が祟りに触れ、それ以来この村は暗い霧の中に閉じ込められたという。土地は痩せ、囀る鳥すらいない。村人は一様に生気が無く、亡者のようだ。
「ヨミ、今宵はアカツキだ。お前の快気祝いも兼ねてご馳走を食べよう」
そう言って長老は歯を剥き出して笑った。年に数度、月が血のように染まる夜がある。その夜だけは、肉を食べることが許されるという。
その夜。赤い月の下、村のほぼ中央に設けられた祭場にゆらゆらと村人が集まり、肉を焼くための火が陰影を作り出す。酒を愉しみ、空腹も感じて来た頃、いよいよ晩餐の肉が運ばれて来た。しかし。
俺は戦慄した。台に縛り付けられた若い女性。恐怖に目を見開いている。
……この女性には見覚えがある。どこで見た? 俺の前に並んでいた。彼女に続いて通路を歩き、座席に座った。窓から見た謎の村落、噂話……
思い出した。俺は旅客機に乗っていた。そして、墜落したんだ。俺はヨミなんていう人物じゃない。矢内真司。それが俺の名前だ。
「鉄の鳥に乗っていた人間は殆ど焼けてしまったが、生き残りはまだいる。その中に、ヨミ、お前もいたのだよ。よく帰って来てくれた。お前には一番美味そうなのをやろう」
そう言って長老は俺に刃を手渡した。い、嫌だ。俺はヨミじゃない。でも、ここで拒絶したら、人違いと知れたら、俺もこの場で殺され、食われてしまう。
殺すしかない。食うしかない。体が動かない。吐き気、眩暈、恐怖……
「お前はヨミではないな」
長老の声が聞こえた。
俺の後ろ、斧を振り上げる村人の影が揺れるのを見た。
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