こんな日は、猫でも繕いながら

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 それから、話し終えた僕たちは、猫と一緒に理科室を出た。  亜厂さんが下駄箱からローファーを取り出す間、僕は不恰好な姿のまま放置してしまった運動靴の靴紐をちゃんと結び直し、踏んだ踵を引っ張り上げた。  そうしていると、大きく開け放たれていた通用口から、暑いけれど随分と柔らかくなった空気が一気に舞い込んできて、僕の進路調査書を攫っていってしまう。 「あっ、飛ばされちゃう!」  追いかけようと外に飛び出した亜厂さんを、僕は止めた。 「いいんだ、何だか考え方が変わった気がするから。また今度、担任から貰うよ」  そっか、と亜厂さんは頷いた。  夕焼けを越していく途中の空には、ひび割れた月が浮かんでいる。 「変われたらどうにか出来たかも知れないけれど、やっぱり私は変われないから、月の事はどうにも出来ないなぁ」  あつーい、と伸びをしながら遠くの月を見上げて、亜厂さんが言う。  僕も、亜厂さんを追って月を見上げる。  このひび割れた月のせいで、明日か明後日か、いつかは分からないけれど、僕たちは絶滅してしまうのだ。 「……どうにも出来なくても、きっと平気かも知れない」  深く考えずに、僕は自然とそう答えていた。  ひび割れた、と世間でこんなに騒がれている筈なのに、こうして二人と猫で見上げていると、月は案外、昨日までと変わらずに平然と浮かんでいるように見えたから。 「明日も暑いのかなぁ」 「そういえば、休校になるらしいね。うちの教室の冷房効きが悪いからラッキーだよね」 「ね、うちの担任って、暑いととりあえずキレるし……」  二人で話しながら、僕たちは並んで歩いた。  暫くそうしていると、僕と亜厂さんの先を歩いていた猫が、ふいに振り返る。  相変わらずあまり可愛くない顔をして、猫は僕に、ニァオと鳴く。  だけど、亜厂さんがしたその瞼の金繕いはやっぱり美しくて、気まぐれに尻尾を振る猫はなんだかご機嫌そうだったから、僕はそれでいいと思った。
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