超・妄想【おくすり】

2/4
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
そんなこんなで、魔法はびこる異世界にぽつんと落っことされた俺は、傷の手当てを済ませた黒いローブの男、名前をロイズというそうだ。彼にくっついて近くの村へと向かって歩いていた。 ちなみに彼の受けた傷は完治しており、その後他に倒れていた面々も完全回復して方々へ散っていった。当然俺が適切に治療(といっても消毒したりガーゼを貼ったりの応急処置しかしていないのだが)を施したおかげだと言えたら胸を張れるだろうが、事実は全く違う。 一言で言えば、ロイズの回復魔法で全員の体力が回復し、受けた傷が治ったのだ。俺の応急処置など全く不必要だった。目の前で見せつけられた魔法というものによって、修復していく傷を見て唖然としたのもあるが、俺のやったことが全くの無駄だったと実感した瞬間、愕然とした。 「やく、ざいし……って、なんだ?」 ロイズに問われて、俺は答えられなかった。少し考えれば、この世界に薬剤師という職業、存在がいないからこその質問だったのだろう。しかし俺には、魔法で体力を回復し、傷を治すことができる世界に、こんな塗り薬や飲み薬を持ち歩く俺の存在の無意味さを問われた気がした。 薬剤師っていうのは……。 薬剤師は、薬剤師法に基づき薬剤の調剤、管理、患者への服薬指導などを行う国家資格。患者さんに薬を調剤する際には、医師が発行した処方箋をもとに行う。 辞書を引くように言えばこうだ。ロイズにもそう説明してみたが、頭の上にクエスチョンマークを浮かべるばかりで、理解してはくれなかった。そりゃそうだ。薬剤師どころか、薬剤師法も国家資格も、この世界には存在しないのだ。 「それは怪我やダメージの治療、回復ができるってことでいいのか? つまりは神官? あんたは、魔術師なのか?」 俺は首がもげるほど横に振って、うなだれた。 その後、ロイズの案内で比較的友好的だという神官職や、魔術師の元へ案内され、少しずつこの世界の事をレクチャーされながら、数ヶ月を過ごした。 結果、この世界は魔法技術が発展し、科学という革新的な技術は完全に廃れている。元々ないと言ってもいい。 魔法世界というよりは、マジックファンタジー系のゲーム世界のようで、この世界の住人には体力がHP、魔力がMPのように数値化されている。 その他諸々あるが、とにかくここには俺以外に薬剤師はおらず、よくわからないけどここで暮らすのなら働けと、魔術師に言われて弟子という形で住み込みアルバイトを始めることとなった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!