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『送ってくれてありがとうね。
ご馳走にまでなっちゃって。』
『おれが負けたから当たり前だ。』
私が車を降りたら、窓を開けて『ゆっくり休めよ。』と言ってから走り去って行く。
窓開けたら雨が吹き込んじゃうのに。
家に着いて玄関に座り込んだ。
《普通はそんなことしないぞ》を頭の中で繰り返す。
言われて傷ついたわけじゃない。
やっぱりそうか、と自分でも思ってしまったのがショックなのかもしれない。
大学のサークルで知り合った同じ歳の彼と付き合ってから12年になる。
仲良く付き合ってはいると思う。
浮気はされてないと思うし、してもいない。
だからこそ、どうにもならないでいる。
結婚がすべてじゃないけど、私は結婚して子供が欲しい。
29歳になる時に聞いたことがある。
私と結婚する気があるのか。
その時は返事によっては別れる覚悟だった。
年齢の重圧に背中を押されて切り出せたが、ものすごい勇気とエネルギーを使った。
彼は《転職したばかりだし、まだいいだろ》と言った。
私は転職したばかりという彼の状況を言い訳に決断から逃げた。
そこからは結婚の話を出せなくなった。
あの勇気とエネルギーを出す気力がなかった。
独りになる心細さと重なる不満を無理矢理に《でも好きだから》で打ち消してきたんだ。
薄れてきた《好き》なのに。
結婚する気が無いからって不誠実ということじゃないと思うようにしていた。
でも、今日遠藤くんと食事してみて、私が虚しく感じていたのは結婚以前のことだとわかってしまった。
私が普通だと、こんなものだと思っていたことは、普通ではなかった。
遠藤くんが言う普通がすべてじゃないけれど、私が思っていた普通もすべてじゃなかった。
『…よし。』
自分を励ますように声に出して、鞄から携帯を取り出し彼に電話した。
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