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1’
また頭痛薬飲んでるな。
打ち合わせに誘おうと藤田の方を見ると、錠剤を飲むのが見えた。
あの姿を頻発に見かける。
最近残業続いているしな。
大丈夫だろうか。
この前は先輩に仕事を丸投げされてる会話が聞こえてきた。
俺が間に入ると藤田にとっての人間関係が拗れそうで、助けられなかった。
でももっと酷くなったら言おうと思う。
そんな仕事でも静かにもくもくとこなしている。
バカがつくほど真面目で責任感が強い。
そして少し負けず嫌い。
そんな藤田が好きだ。
3年前、営業への異動は不本意だけど負けたくないと言って短期間で仕事を覚えていた。
もともと同期で仲が良かったし、そんなひたむきな藤田に惹かれていったのは自然の流れだった。
藤田への気持ちに気付いた頃に、友達の紹介で食事をしていた人がいたが、お付き合いはできないと断った。
長く付き合った彼がいるのは同期会で聞いて知っていた。
自分の気持ちに気付いて藤田にぶつけたところで、一途で真面目なあいつを困らせるのは目に見えていた。
どうこうする気もないまま、ここまできた。
そのうち藤田が結婚でもしたら諦めがつくだろうと何となく思っていた。
先日の会社の飲み会でのこと。
藤田は欠席で久しぶりに柴山が参加していた。
藤田の話題になり、彼氏はまだ結婚する気は無さそうなこと、29歳の時にケジメをつけようとしたけど結局決めきれずに付き合っていることを聞いた。
『何か強いキッカケがないと変えられないよね、あの子は。
結婚したくないならそれでいいのよ。
でもそうじゃない。
そろそろ旦那の友達でも紹介しようかと思って。
迷うかもしれないけど、もういい加減真剣に説得するわ。』
その言葉で俺も心を決めた。
他の男を紹介するくらいなら、その強いキッカケには俺がなる。
もしかしたら柴山は俺の気持ちに気が付いていて、わざとそう言ったのかもしれない。
柴山に感謝だな。
今日は営業車で帰る。
調子悪そうだから送ってやりたいし、そろそろ話がしたい。
打ち合わせの後、誘ってみるか。
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