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もう一時間近く山道を歩いている。
私以外に登山者の姿はなく、降りしきる蝉しぐれが、ただただ喧しい。
リュックと背中の間には絶え間なく汗が流れ続け、ぐちょぐちょと音を立てて気持ちが悪い。
顔をあげると、はっきりとした緑色を湛える梢の向こうに青い夏の空が見えている。
汗が前髪をつたい、鼻先を流れ、顎先から落ち、ぽたぽたと地面に吸い込まれていく。
いくつもの木漏れ日が雨のように降り注ぎ、無数の水玉模様を作り出している。私はその滴のような光の欠片を踏み潰すようにしてただ一人、山道を登っていく。
なぜ、このような馬鹿らしいことになってしまったんだと、山道を登りながら考えた。
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