転生しても「卓球が……したいです……」とか思ってたんだけど、気が付くと、なぜか国家間の争いに参加してた

1/6
前へ
/6ページ
次へ
 気が付くと、何も見えなかった。  とはいえ、真っ暗というわけではない。  周囲は明るい。それは分かる。でも、はっきりとは見えない。まるで、眩しすぎて周囲が見えないときのような。  俺は状況が理解できなかった。混乱して、泣き喚いてしまった。 「どうしたー? 卓也(たくや)ー? ミルクか? それとも、ウンチしちゃったかなー?」  男の声が聞こえた。赤ん坊に話しかけるような猫撫で声だった。  すぐに、体を包む感触。抱き上げられたのだと気付いた。  嘘だろ? 俺、中学三年だぞ? それを、猫みたいに抱えやがった。  驚いたせいか、かえって俺は冷静になった。じっくりと、今に至るまでの記憶を辿ってみた。  今日は中体連の日だ。ラケットとボールを鞄に詰め込んで、学校指定のジャージを着て、俺は試合会場に向かった。市内の体育館。  卓球の地区予選の日。  去年、俺は、二年生にして全国大会の決勝まで勝ち進み、惜しくも敗れた。  幼い頃からやっていた卓球。正直なところ、自信があった。それだけに、日本一になれなかったときは悔しかった。  だから、それこそ血の滲むような練習をした。ただ量をこなす練習じゃない。時間は有限だ。いかに効率的に自分を磨く練習ができるか。それが鍵だと思っていた。  実際に、俺は、この一年で格段に強くなったと思う。今年こそは日本一に。今日はそのスタート。意気込んで家を出た。意気込み過ぎてズンズンという足取りで歩いていたら、石に(つまづ)いた。電柱に頭をぶつけて、意識が遠のいて。  気が付いたら、今になっていた。知らない男に、猫みたいに抱きかかえられている。  いや。まてよ。  この男、今、ミルクだのウンチだの言ってたよな? 赤ん坊に語りかけるみたいに。  俺の頭に、最近放送している数本のアニメが思い浮かんだ。死んで、生まれ変わる。つまり転生。  まさか、と思った。    そのまさかは、見事に的中していた。  俺は電柱に頭をぶつけて死に、転生したんだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加