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俺が十五になったときだ。
隣国との争いが勃発した。島国である日本と、大陸の一部である敵国。その間にある領海問題で揉めたのだ。日本と敵国の間にある海には、ワカメが大量に生息している。
この時代は平和だ。いきなりミサイルをぶっ放すなんて、決して許されない。
主要国首脳会議が開かれ、日本と敵国の争いは、タッキュウでの勝負に委ねられることになった。
十三のときから三年連続で日本一になっている俺は、当然のように、日本代表に選出された。
国家間で争うタッキュウに、ダブルスはない。各国が五人ずつ代表を選出し、それぞれ一対一で戦うのだ。先鋒、次鋒、中堅、副将、大将。五戦行い、勝ち星の多い方の勝利。まるで武道の団体戦だ。
試合は日本で開催されることとなった。開催国も、主要国首脳会議での決議により決定された。日本が開催国になった理由は、敵国よりもワカメの消費量が多かったからだという。どこまで本当かは分からないが。
試合の日になって、俺達日本代表は会場入りした。大きな武道館。
観客席は、すでに満員だった。おおおおおおおおおっ!――という歓声。それは、歓声というよりも怒号だった。会場中が、異常なほどの興奮に包まれている。
会場の中央部に設置された、ひとつのタッキュウ台。
「……は?」
会場にあるタッキュウ台を見て、つい、俺は間の抜けた声を漏らした。
タッキュウ台が、金網で囲まれているのだ。まるで、デスマッチの試合場のように。
金網の中には審判がいる。金網越しに審判の姿は見えるのだが、その性別は分からない。理由は簡単だ。審判は、全身に鎧を纏っていた。顔まで完全に覆い尽くす、中世ヨーロッパの騎士のような鎧。
タッキュウ台を囲む金網の外。両サイドに、椅子が六つずつ用意されている。各国の選手とコーチが座る椅子だろう。
「あのー、コーチ?」
俺は、傍らにいるコーチに疑問を投げかけた。この日に備えて、コーチは、アイパッチを新調したらしい。いつもは黒い彼のアイパッチが、今日は白だった。日本国旗を模倣するように、中心に赤丸がある。
「なんだ、卓也」
ギロリと、コーチが俺を睨んできた。恐ぇ。この人、絶対、元タッキュウ選手なんかじゃねーよ。元人殺しだよ。間違いなく、五、六人は殺ってるよ。
コーチの迫力に気圧されながら、俺は、素直に疑問を口にした。
「何なんですか? あの金網。それに、審判のあの格好」
「……あ?」
コーチのスキンヘッドに青筋が浮かんだ。
「お前、何馬鹿なことを言ってるんだ?」
「あ……いや……」
いやいやいやいや、恐ぇよ! 五、六人じゃなく、七、八人は殺してる奴の顔だよ、これ。アイパッチをしていない方のコーチの目は、血走ってて真っ赤になっている。今にも誰かを殺しに行きそうな目だ。
俺は何も言えなくなった。「いや、何でもないです」と言うのが精一杯だった。
俺達は、自国選手用の椅子に座った。
会場では、二カ国語で、大会の説明がアナウンスされた。続いて、選手の紹介。日本チームの大将は俺だった。つまり、最終試合。
明らかにおかしいタッキュウ台。コーチの血走った目。異様な観客の雰囲気。
馬鹿でも分かる。この雰囲気はただ事じゃない。普通にタッキュウをする雰囲気じゃない。
とはいえ、コーチには聞けない。恐い。
幸いというか、何というか。俺は大将だ。つまり、試合までまだ時間がある。
俺は自分のスマホを取り出し、国家間のタッキュウ勝負について調べてみた。ブラウザを立ち上げ、検索文言を入れる。
『タッキュウ 国家間 試合』
検索結果のトップに、浮きペディアという情報サイトが出てきた。ページのタイトルが表示されている。
『国家間のタッキュウ――断球。その歴史と成り立ち』
俺はそのページをタップした。
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