悪役令嬢症候群

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とある異世界の診療所にて 「運命の相手(ひと)……か」  先生が呟いた。 「どうしたんですか急に」  私は掃除をする手を止めずにこたえた。  先生は黙って座っていると椅子に乗せたお人形のよう。だけどこれでもれっきとした成人女性だ。  先生は自分が散らかした部屋を片付ける私を眺めながら 「君の理想の男性像は確か白馬に乗った王子様だったね?」  いきなり人の黒歴史なセリフをぶっ込んできた。ほんとに何なの急に。 「そういう先生は付いてさえいればいい、でしたっけ」  先生はくるりと椅子を回転させ、こちらに体を向けて細い足を組んだ。 「ボクだって年頃の健康的な女子なんだ。異性を見て情動を感じることだってあるんだぞ」 「たまにムラムラすることがあるってことですか? 先生はその度に男性の人体構造について調べてますよね。あの本だけ異常に劣化してるんですけど」 「い、いいだろ別に! 来るべき時に向けて学習してるんだよ。予習復習は大切じゃないか!」 「予習が生かされる機会が来るといいですねぇ。復習する機会はしばらくなさそうですけど」 「……言ってくれるじゃないか」  先生は未だに男性経験がない。どころか男性とお付き合いをしたこともない。本人曰く、これ以上広げられないほどストライクゾーンを広げているのに球が飛んでこないとのことだ。 「そういう君こそ休日は朝からせっせと出かけては男漁りをしているようだが、最近では顔を覚えられてしまっているようだね。そろそろあのスポットはやめた方がいいんじゃないか?」 「どうしてそれを!? つ、尾けてたんですか!?」  実は私も男性経験はない。  でも私は先生とは違ってかなり胸も大きいしスタイルはいい。顔だってそこそこ以上ではあると思う。そのせいか、近寄ってくる男性はたいていがカラダ目的だったけど。 「ボクとは違って、なんだって?」 「ま、また思考を読みましたね! 本当に訴えますよ!」 「君の思考が漏れていただけだよ」  先生は悪びれもせずに言う。 「じゃあ現実的な話、君はどんなボーイフレンドが理想なんだ?」 「そうですね……現実的な話をするなら、上級貴族でお城とか持っててイケメンだったら問題ありません」 「問題があるのは君の頭の方だ。どこが現実的なんだよ」 「いいじゃないですか夢見るくらい。先生のようにオスならなんでもOKよりは普通です」 「せめて人系(にんげん)がいいんだけど」  先生は足を組んだまま机に肘をついた。  私はその姿につい見惚れてしまった。  白衣の裾から細く伸びた真っ白な肌。淡いふわふわの髪。それらが一つの芸術作品のように完成された美しさ。  加えて、世界最高と謳われる医術、魔力、身体能力、王族以上の資産と権力まで持っている。神様が最高の人類を作ろうとしてあれこれ詰め込んだ結果生まれたのが先生という存在なのかもしれないとさえ思う。  ただ、小さい。  ミニチュアみたい。  神様は先生の体を成長させる要素だけは入れ忘れたようだ。
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