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「でも一番大切なのは優しい人かどうかですけどね」
「……優しい人?」
先生はこちらに視線だけ向ける。
「そんなのいくらでもいるんじゃないのか?」
「意外といないもんですよ」
先生は腕を組み、足を組み替える。
「優しいって……空腹で倒れてる人に食べ物をあげる人とか?」
「全っ然違います。まず空腹で倒れてる人なんてどこにいるんですか」
「もちろん消化に良い茹でた穀物や大豆をあげるんだ」
なにを得意げに……。
「それは胃に優しいお話でしょう」
「じゃあ、ゴミをポイ捨てしない人とか?」
「それは環境に優しい人です」
「じゃあ右の頬をぶたれたら左の頬を差し出す人!」
「それは優しさ通り越して愛でしょ! ふざけてるんですか!」
「じゃあどんな人なのさ!」
なぜか怒られた。
「例えばドアを開けて持っててくれたり、重い荷物を持ってくれたり……」
「馬車に轢かれそうになった人を助けようとしたり?」
「違います。そんな物語の導入みたいな話じゃないんです。優しいというのは『私だけに優しい』という話です」
「ど、どういうこと?」
本気でわけがわからない、といった先生。
「他の女に優しいのはむしろNGです。私のことを一番に想っててくれて、私が間違っていても肯定して、私が悪くても味方をして、私のお願いならどんな無茶でもきいてくれる人のことを言ってるんです」
「そんな男が……いや、そんな人類が親以外に存在するのか? 白馬の王子様のほうがまだ現実的なんじゃないか?」
「だからなかなか見つからなくてこまってるんですよねぇ」
先生は椅子から飛び降りると一枚の封筒をちらつかせながら言った。
「そんな君の非現実的な理想を叶えるのにうってつけの仕事が入ったぞ」
「私は割と冗談のつもりだったんですけど……」
「喜べリコくんっ! 今回の現場は貴族のお見合いパーティーこと王宮舞踏会だ!」
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