悪役令嬢症候群

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「くそ、失敗した! なぜだ!」 「9割は先生のせいです!」 「残りの1割は!?」 「やっぱり全部先生のせいです!」 「ひ、人混みに紛れて逃げるぞ。2000人もの要人が集まってるんだ。衛兵たちもおいそれと弓や銃なんかは使えない」 「ま、待ってください! 私ヒールだし、先生みたいに体力がありません!」 「そ、そうだった。まずい、囲まれる! やむを得ないがここは麻酔ガスを……!」  先生がガスマスクを懐から取り出したところで 「全員、静まれ!!!」  本当に一瞬で会場が静まり返った。  その声にはそれだけの迫力があった。  声の主がゆっくりと立ち上がり、こちらに近づいてきた。  静かになった会場に足音だけが響く。  このお方は――国王陛下だ。  齢19歳の美しく聡明な我が国の王。この大陸の覇者。  小さな太陽が地上に現れたかのように光り輝いて見えた。    「全員その場を動くな」  国王陛下の登場に会場にいた全員が(ひざまず)(かしず)く。  もちろん先生も私も。 「王子」 「は、はい陛下」 「そなたが浮き名を流していたことは知っている。若き時分にはあることだ。だが、女性を不幸にするようなものに我が臣民はやれない。貴殿はフローレンシアを愛しているか? 彼女を幸せにできると誓えるか?」 「はい、陛下。今ここで皆様の前で宣言させていただきます。私は生涯フローレンシア様を愛し続けることを誓います。そして、これまで関係があった全て女性たちにもできる限り誠実に対応すると誓います」 「わかった。ではフローレンシア。君はどうかな? これまでのことも受け入れ、王子のことを愛し、幸せになると誓えるかな?」 「はい、陛下。私は王子殿下のことを生涯愛し続け、必ず幸せになります」 「皆、聞こえたな。私はこの婚儀に異存はない。皆はどうか!」  異を唱えるものなどいるはずもなかった。  ひれ伏す私の前に陛下の靴が見えた。 「では、そこの君だが……君の息子はどこへいったのかな?」  陛下に突然話しかけられてしまい心臓が膨れ上がる。  なんと答えればいいの!?  息子って何!?  あ、先生のことか! 「あ、あれ? 先生が、いない!?」  まさか一人で逃げた!?  そんなわけ――  その時、扉が勢いよく開き、一頭の白馬が会場に乱入してきた。  会場は悲鳴と怒号に包まれる。 「リコくん!!!」  馬に乗っていたのは先生。いつのまに外に!?  捕まえろ、と追ってくる衛兵たち。 「先生っ!」 「掴まれ! 逃げるぞ!」  先生はすれ違いざまに私を軽々と抱きあげた。この小さな体のどこにそんな力があるのだろう。  ――フローラと一瞬目が合った 「リコ!」 「フローラ!」 「ありがとう! 私、絶対に幸せになるわ!」  そんな声が聞こえた。気がした。
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