3.居場所

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 実は今日誕生日だと言う絵梨の一言がきっかけになって私達は「駅前のデパートまで行ってみよう」と決めた。 高架橋沿いの道を延々と喋りながら歩いて、駅前のデパートまで辿り着くと まず最初に化粧品売り場に乗り込んで、私達は気が済むまでデパコスを試しまくった。 「マジでここ、天国みたい!」  コスメカウンターに並ぶチークを試しながら弾む声で言う絵梨に、私はマスカラを塗りながら応える。 「メイク終わったらさ、上の階の服も見よう」 「いいね。着替えよ着替えよ」  まるで海賊にでもなった気分で、高級コスメを試し、服を着替え、デパ地下のお菓子を心ゆくまで堪能した。 「今日が誕生日でしょ、8月24日だよね」 「そう。綺麗に書いてよ」 チョコプレートに下手な字でお祝いのメッセージを書くと、絵梨はお腹を抱えながら笑った。 「停まってるエスカレーターって、マジで気持ち悪いよね」 「酔っ払うってこういう感じかな」 「もしそうなら、お酒なんて一生飲まなくていいや」  停まったまま動かないエスカレーターの手摺りに掴まったまま、よろよろと私達は登って行く。  あちこちの店から拝借した服を身に纏い一階へと戻ると、普段は入り口に強面の警備員が立っているような超高級店に二人でバタバタと騒がしく駆け込む。 「このネックレス可愛くない?」 「めっちゃ似合うよ、貰っちゃいなよ」 「見て、この帽子、芽衣に似合いそう」  満面の笑みを浮かべた絵梨に麦わら帽子を差し出されて、つばの部分を指先でつまむと自分の頭に被せた。 「いい女っぽく見える?」 「見える見える、超いい女だわ」 「このゴールドカードで買いますわっ。こちらおいくら万円かしら」  お金持ちになりきって尋ねると、笑いながら店員になりきった絵梨が「少々お待ちくださいませ」と言う。  帽子に慎ましく付いている小さな値札の金額を見て、絵梨がぎょっと目を見開いた。 「じゅっ……15万円?!」 「えっ、マジで?」  ひぇっと短い悲鳴をあげて、咄嗟にガラス張りのカウンターの上へ帽子を放り出す。 「どうせ誰も買う人いないんだからさ、芽衣が被ってなよ」  私が思わず怖気付いて戻した帽子を、絵梨はひょいっと持ち上げると再び私の頭に被せた。 「うわぁ、さっき地下で食べたケーキ何個分かな……」 「さぁねぇ、余裕で200個くらいは買えるんじゃない?」 「……」 「良いじゃん。頭にケーキ200個乗せてるって思えば」 「その例えはなんかヤダ」  絵梨は絶妙に帽子が似合っていない私を見て、涙目になりながら笑っていた。
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