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 どのアーティストのライブに行こうかと、情報収集を始める。  ライブハウス系がいいな。売れてるアーティストよりは、これからって感じのアーティストがいい。それで、命が続くなら、そのアーティストを推し続けて、「売れる前から愛してた」マウント……って、いくら初期から推していたとしても、マウントとったら性格悪いのかな? わかんないけど、でもやっぱり、初期から推し。これだ!  これからデビューするというアーティストの紹介記事を見つけて、ライブ候補だと飛びついて読んだ。  私に、大きな雷が落ちた。  雰囲気がだいぶ変わっているけれど、間違いない。このバンドのキーボードの人は、あの日、一緒にミルクティーを飲んだ人だ。  デビュー、するんだ。  現実を見て、感情が複雑に絡んだ。あの時、もっと自分に熱があったら。もっと会話の引き出しがあって、あの場を盛り上げられていたら。私はこの写真の向こう側に居たのだろうか。そんな未来も、あったのだろうか。  思考が過去に沈んでいく。  あのとき、あのとき。もし、あのとき――。  ブルブルとかぶりを振った。戻ってこい、私。すぐに、今に。  メジャーデビューシングルのリリースイベントへ足を運んだ。  普段はCDを買わず、サブスクで流行の音楽を聴く私だけれど、この時ばかりは円盤を買った。  CDの購入特典として、その場でバンドメンバー全員がサインを入れてくれるという。その順番を待ちながら、私は頭の中で、引き出しを増やして、増やして、増やした。 「あの、私、以前あなたとお話させていただいたことがあって、その……」  ああ、私って緊張に弱いんだな。  作った引き出しを全く活かせないまま、しどろもどろになりながら、思う。 「え、ええっと……」  困惑された。けれど、そんなものだろう。小一時間会って、共にミルクティーを飲んだだけの関係なのだから。  今となっては、光を浴びる者と、光を浴びる姿を見る者っていう、立場の違いもある。 「ああ、いや。ごめんなさい。デビューおめでとうございます。これからも頑張ってください」 『どしたの? エリ』  ドラムの人が、キーボードの人――エリに問いかけた。  メンバー全員のサインを書くのは、流れ作業と言ってよかった。それが今、せき止められている。異変。それが大勢の不満に変わるのも、時間の問題だ。 「ごめんごめん。あ、すみません。お待たせしました。これからも応援、よろしくお願いします」  言いながらエリは、満面の笑みでサイン済みのCDを手渡してきた。  声をかけなければよかっただろうか。流れ作業の中に、私の勇気までもが、流されていった。
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