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 家に帰り、サイン入りのCDをぼーっと眺めていた時、私にまた、雷が落ちた。  エリはサインだけではなく、メッセージをそこに書いていた。  ――ミルクティー、今も好きですか?  向かいあったのは、せいぜい一分くらいだった。それなのに、エリは、思い出してくれた。記憶を、引き出してくれた。  あの時に連絡を取ったアカウントは、今も生きていた。  私はダイレクトメッセージを送ることにした。何時間もかけて文章を考えて、何度も何度も読み直して、変なところがないかを確認した。  送信マークを押す前に、コンビニへ走った。なんてことない普通のミルクティーを買って来て、ぐびぐび飲んだ。あの時とは全然違う味。だけど、それが、私に勇気をくれた。  明日死んじゃっても、後悔しない行動を、今日もできた、気がする。  まだ売れっ子ではないにしろ、忙しいのだろう。既読のマークはついたけれど、返信は来なかった。  エリたちの音楽を聴きながら私は、返信がなくても送ったことに意味があるのだと自分に言い聞かせ、ちょっと強がった。  ある日、すこし難しいギターソロの練習をしていた時、スマホがブルっと震えた。どうせ企業広告だろうと、ちょっとため息をつきながらそれを見た。  私の身体に、一閃が走った。  私の視界に飛び込んできたのが、エリからのメッセージを受信したという、通知だったからだ。  ライブの日、私は半休を取った。仕事を終えてから急いで行っても間に合うのかもしれないけれど、残業に巻き込まれたら終わるからって、安全策。  エリとはあれから、時々メッセージのやり取りを続けている。彼女は、「バンドメンバー募集って言っているのに、カフェで話をしたの失敗だったな、って、今でも後悔してるの」と、私に謝罪をしてきたこともあった。  言われて、確かにそうかも、と思った。けれど、私の中ではもう、あの日は『後悔しないようにとちゃんと行動した記念日』であって、その結果がどのようなものであっても、後悔するようなことじゃない。相手を恨むようなものでもない。  今はもう、ただの、音楽が好きな、友だち。  そんな友だちの晴れ舞台に、遅刻なんてできない。開場の何時間も前に最寄りの駅に降り立つと、近くのカフェでミルクティーを飲んだ。すっごくおいしい。心の底から、そう思う。
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