フライング

1/2
前へ
/2ページ
次へ

フライング

「全く……なんてことをしてくれたのよ!」  目の前で舞香がヒステリックに叫んだ。 「悪いとは思ってる」 「信じられない……半年も準備してきたのに……リハーサルまでして、いよいよ明日が本番だったのに……計画がぜんぶ、おじゃんじゃないの!」  舞香が顔を覆うのを見て、ますます僕は申し訳なくなった。でも、責められたところで、どうしようもない。時計の針は、もう戻せないのだ。 「本当にごめんなさい」 「あなたをすっかり信頼してた、あたしがバカだった。そもそも、突拍子もない思いつきだし、ただの愚痴だったのよ。それを、あなたはどんどん先に進めるし、決断力も行動力もあるように見えたから、ついつい信用して、口車に乗ってしまった」  決断力と行動力についてはわりと褒められる。思いついたら一直線で、実現しないと気がすまないところがある。だから、事業も大きくなったのだ。ついつい株に手を出して全てを失ってしまったが。 どうやら褒められて少しにやにやしてしまっていたらしく、「喜んでんじゃないわよこの馬鹿!」とまた怒鳴られてしまった。 「思い返せば、最初からあなたはおかしいところがあった。あんな提案、普通初対面の人にする? あなたの衝動性を見抜けなかったあたしがどうかしてたんだわ」  僕はますます嬉しくなった。そう、おかしいのはお互い様だ。こうなったのは、僕だけが悪いわけじゃない。自覚してくれて何よりだ。  むしろ、今日まで努力して、あと少しで成功するところまでできたのは、そもそも僕のおかげなんだから、多少感謝してもらってもいいくらいだ。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加