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フライング
「全く……なんてことをしてくれたのよ!」
目の前で舞香がヒステリックに叫んだ。
「悪いとは思ってる」
「信じられない……半年も準備してきたのに……リハーサルまでして、いよいよ明日が本番だったのに……計画がぜんぶ、おじゃんじゃないの!」
舞香が顔を覆うのを見て、ますます僕は申し訳なくなった。でも、責められたところで、どうしようもない。時計の針は、もう戻せないのだ。
「本当にごめんなさい」
「あなたをすっかり信頼してた、あたしがバカだった。そもそも、突拍子もない思いつきだし、ただの愚痴だったのよ。それを、あなたはどんどん先に進めるし、決断力も行動力もあるように見えたから、ついつい信用して、口車に乗ってしまった」
決断力と行動力についてはわりと褒められる。思いついたら一直線で、実現しないと気がすまないところがある。だから、事業も大きくなったのだ。ついつい株に手を出して全てを失ってしまったが。
どうやら褒められて少しにやにやしてしまっていたらしく、「喜んでんじゃないわよこの馬鹿!」とまた怒鳴られてしまった。
「思い返せば、最初からあなたはおかしいところがあった。あんな提案、普通初対面の人にする? あなたの衝動性を見抜けなかったあたしがどうかしてたんだわ」
僕はますます嬉しくなった。そう、おかしいのはお互い様だ。こうなったのは、僕だけが悪いわけじゃない。自覚してくれて何よりだ。
むしろ、今日まで努力して、あと少しで成功するところまでできたのは、そもそも僕のおかげなんだから、多少感謝してもらってもいいくらいだ。
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