責任の重さを思い知る

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 怖かった。怒鳴られたのも怖かったが、私が勧めた薬を飲んだ人が体調を悪くしてしまった事の方が怖かった。  良くなって欲しいと思い勧めたのに、反対に体調を崩させてしまった。もっとちゃんと説明しておけば良かった。箱の裏側を読んで、もっと丁寧に説明すれば良かった。いや、そもそも資格もないのに出しゃばってしまった。誰か資格者を呼べば良かったのだ。後悔しかない。  力が出なかった。いつもは簡単に運んでいたペットボトルのケースも、今日は物凄く重たく感じた。 「斉藤さん、次レジよね」  小宮山さんが呼びにきた。頭の中がさっきの事でいっぱいで、すっかり忘れていた。 「すみません、すぐに行きます」  慌ててレジに向かう。 「斉藤さん勉強進んでるみたいね。やっぱり若い人は覚えが早いわね」  何事もなかったかのように小宮山さんは言った。 「いくら勉強しても、それを生かせなきゃダメですよね」  私には無理なんじゃないのか、責任が重すぎる。そう思った。 「何言ってんの。英語も話せて薬も分かる二刀流。みんな期待してるわよ」 「期待されても……」  薬の事を知っていても、それをちゃんと伝える事ができなくては登録販売者失格だ。 「今勉強してる斉藤さんの方が、私よりも薬に詳しいと思うわよ。私なんか試験終わったらすっかり忘れちゃって。やっぱり年よね」 「え? だって小宮山さん接客しっかりやってるし、苦情ないじゃないですか」 「秘密があるのよ」 「秘密?」  小宮山さんはいたずらっぽく笑った。
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