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湧き上がる興味
そして少しずつレジも覚えた。挨拶の仕方、値引きの操作、領収書の書き方、スマホ決済の方法。覚える事がたくさんで失敗する事もしばしばだ。
「申し訳ございません!」
こんな言葉生まれて初めて口にした。社会人の大変さを思い知った。
「ねえ、風邪薬いっぱいあるけど、どれが一番効くの?」
お客様から質問される事もしばしば。でも私には分からない。そのたび資格者を呼び対応してもらう。
「こちらのお薬は特に咳に効きます。こちらは1日2回タイプなのでお仕事されていて昼飲めない方には便利です。こちらは眠くなる成分が入っていないので車の運転も安心です」
資格者の証の白衣を着た店員さんが、お客様に丁寧に説明している。薬の箱に書いてある成分を見ただけで、その特徴を説明できる。カッコいい。
私もなってみたいーー。
自分の白衣姿を想像した。うん、いいかも。私がもし登録販売者になったら、歌って踊れる……じゃなくて、お化粧品の事も分かる登録販売者になりたい。
今私は大学の英文科で学んでいる。でもどうしても英語がやりたいというわけではない。英語ができたらカッコいいな、くらいの気持ちだった。どうせ三流大学だから学校の先生になんかなれないだろう。せいぜい子供向けの英語塾の先生がいいところだ。でも子供が好きなわけではないし得意でもない。外資系企業で英語を活かすなんて夢のまた夢。
私は何になりたいんだろう。大学卒業したらどうするのだろう。
「斉藤さん、確か英文科だよね?」
「はい」
「ちょっと来て!」
店長が慌てて私を呼んだ。付いていくと薬売り場に外国のお客様が立っていた。
「薬欲しいみたいなんだけど、どこが具合悪いのか分からなくて」
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