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「あの、便秘薬どこですか?」
茶髪で派手なメイクの女性が小声で伏し目がちに聞いてきた。見かけは怖そうだが、”便秘薬”となると恥ずかしいようだ。
「ご案内しますね」
私が前を歩き先導する。もうすっかり商品の場所は覚えた。
「いっぱいあるけど、どれが一番効くの?」
「便秘は酷いんですか?」
「1週間出てないのよ」
「うわっ、それは辛いですね」
そんな話をしていると、女性はテレビで頻繁に宣伝している便秘薬の箱を手に取った。
「CMで良く効くって言ってるから、これにしようかな」
赤い小粒の便秘薬だった。確かこれはビサコジルという成分のお薬だ。便秘薬には植物性のものもあるが、即効性でいうとこれが一番のはず。
「そうですね。大分お困りのようなので良いと思います。最初は2錠で試してみて、効果が薄いようなら3錠に増やしてみてくださいね」
気分は既に登録販売者だ。他の登録販売者さんがお客様に説明していたのをこっそり聞いて覚えておいた。できるじゃん。私にもできた。
「どうぞお大事に」
接客できた嬉しさに私は舞い上がっていた。これくらいなら私にもできる。なんだ、簡単じゃないか。試験を受けるまでもないーー。
次の日出勤すると、レジに昨日の便秘の女性が来ていた。顔つきは険しい。薬が効かなかったのだろうか。横には赤い髪でゴールドアクセサリーをチャラチャラさせた強面の男がいた。対応していた小宮山さんが神妙な顔をしていた。何かあったのだろうか。異様な雰囲気だ。
「あ、あの人!」
私に気付くと女性は私を指差した。すると男が睨みながら私に近寄ってきた。
「アンタか? アンタが効くからってコイツに買わせたんだってな。だがな、その薬飲んだら効くどころか胃が痛くなっちまったんだよ。どう責任取ってくれるんだ!」
男は私に怒鳴りつけた。店中に響く大きな声。私の体は一瞬で固まった。
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