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責任の重さを思い知る
そんなはずない、はずだ。だってたくさんの人が飲んでる薬だ。そんな副作用があったらとっくに改善されてるか販売中止になってるはずだ。
この人の胃が特別なんじゃないのか。私は真っ白になった頭を必死に動かし、言い訳を考えていた。
「ここでは何ですから事務所でゆっくりお話を伺います」
騒ぎを聞きつけ店長が現れた。他のお客様が遠巻きにこちらを見ている。
「ここじゃマズいってわけか? そりゃそうだよな、この店は効かないどころか病気にする薬売ってるんだからな。今度は胃薬買わせようって魂胆か!?」
男は更に大きな声を出した。
「期限切れだったんじゃないのか? この店はそんないい加減な薬を売ってるのか!?」
「期限チェックはしっかり行っています。箱はお持ちですか? 裏に期限が印刷されているはずです」
店長が落ち着いて男に尋ねた。期限切れの物を店に並べるなんて有り得ない。そんな自信に満ちていた。
「箱ごとすぐにゴミ箱に捨てたよ。あんな恐ろしい薬、見たくもない!」
レジの前で膠着状態が続いた。他のお客様たちは怖くて近寄れないらしく売り場をウロウロしていた。
「斉藤さん、ビサコジルの注意点は?」
小宮山さんがこそっと耳打ちしてきた。
「注意点?」
「飲み合わせとか食べ合わせで」
私はテキストの”下剤”のページを思い浮かべた。下剤は腸に刺激を与えて排便を促す。腸で作用させなければいけないので、他の薬のように胃では溶けないようにコーティングされている。
しかしアルカリ性の飲み物と一緒に服用するとコーティングが溶け、腸まで届かず胃で作用してしまう。そのアルカリ性の飲み物の代表といえば……。
「牛乳!」
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