責任の重さを思い知る

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 小宮山さんと店長が私の方を見てニッコリ微笑んだ。 「お客様、もしかしてですが、このお薬を牛乳で飲んではいませんか?」 「冷たい牛乳と一緒に飲んだわよ。その方が効果的でしょ?」 「下剤は腸で効くように作られていて、普通は胃では溶けません。でも牛乳と一緒に飲むと胃で溶けてしまい、効果が薄れてしまいます。それどころか胃に刺激を与えてしまい、胃痛や吐き気を起こす事があります。なので今後下剤を飲む時には牛乳と一緒に服用しないようにお願いします」  店長は丁寧に説明した。 「そ、そんな事知らないわよ! そんな事あの人言ってなかったわ!」  女性が私を指さした。その通りだ。私はその事を説明しなかった。いや、思い付きもしなかった。私のせいだ……。 「添付文書はお読みになりましたでしょうか。薬には必ず注意書きがあります。下剤に限らずどの薬でも服用前には必ずお読みください。用法用量、注意点が書かれています。薬は人体にとっては異物です。どんな薬にも必ず副作用はあります。ご自分の健康のためにも、効果的にお使いいただくためにも、是非お願いします」  店長と小宮山さんが2人に深々とお辞儀をした。つられて私もお辞儀をした。男は何も言えず黙ってしまった。 「ぎゅ、牛乳がダメだったら箱にデカく書いとけ!」 「はい。貴重なご意見ありがとうございます。製薬会社へ伝えさせていただきます。お客様からのご意見がより良い薬を作るのです。このたびは誠にありがとうございました」  店長は男ににっこりと微笑んだ。2人は気まずそうに店を出ていった。  一気に力が抜けた。その場で立ち尽くす私を店長は事務所に呼んだ。 「まあ、難くせ付けて慰謝料ふんだくろうって魂胆だったのかもしれないな。たまにそういうお客様もいるから気をつけてね」 「す……すみませんでした。私がちゃんと説明しておけば……」 「資格のない人は薬の説明しちゃいけないってテキストに書いてあったでしょ?」 「……はい」  そうなのだ。資格を持たない者が薬の説明をするのは違法だ。ちょっと勉強して覚えたからといって調子に乗ってしまった。 「資格取ったらじゃんじゃんお願いするからね。今は僕たちの接客を見て覚えてね。さあ、仕事仕事」 「はい」  店長は優しくそう言ってくれたが、私はすっかり自信をなくしてしまった。
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