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第44話
霧島が開けたドアから中に飛び込む。背中合わせで全方位警戒するも人の気配はない。
それでもトイレやバスルームまで点検して安全を確かめ次の部屋に移った。
四枚目のドアで御前の部屋に行き当たる。御前を起こすためチャイムを鳴らした。すると御前は異変に気付いていたらしく、キッチリと渋い色の和服に着替えた姿で静かに出てくる。
「いったい何の騒ぎじゃ?」
「まだ分からん。取り敢えず上の京哉の部屋にでも退避していてくれ」
「分かった。ついでに所轄署の尻でも叩いておこうかの」
悠々と階段を上がってゆく御前を見送ってから残りの部屋の点検を終えた。
二人は神経を張り詰めながら二階に降りる。二階には今枝やメイドに医師たちの部屋があった。部屋という部屋を点検してみたが幸い皆は無事だった。ここでも皆に四階まで退避するよう告げる。ぞろぞろと階段を上っていく背後を護り、四階に着く頃まで暫し待った。
「残りは一階のシェフたちか」
「厨房の裏に部屋があったよね、二部屋」
「ああ。二部屋にそれぞれ二人で四人いる筈だ」
階段を降りた一階では確かに何かが起こっているような、不穏な気配が濃厚に漂っていた。しかし焦らずここでも端から点検だ。リネン室や倉庫などの側から部屋を見て回り、ロビーフロアを越えるとホールなども開けてみる。全てハズレで小食堂に辿り着いた。
「ここからが本番だぞ、京哉。怖くはないか?」
「大丈夫だよ、背中は任せて」
「心強いな。では行こう」
飛び込んだ小食堂は異常なし。と思った途端に厨房側で眩い光が閃いた。マズルフラッシュだと気付いた霧島は瞬時に京哉が無事なのを確認しつつ駆け出し、カウンターに片手をついて飛び越えている。そのまま勢いで拳銃を手にした男の腹に蹴りを見舞った。
京哉も黙って見ていない、もう一人の男が霧島の頭部に向けた拳銃を反射的に撃ち落としている。トリガごと指を粉砕され、男は呻いて手を押さえ転がった。
明かりを点けてみると男二人は素敵お洒落なチンピラといった風情ではなく、黒っぽいブルゾンを着た上に目出し帽まで被っている。どうやら泥棒に入った挙げ句シェフたちに抵抗され強盗に昇格したらしかった。
シェフたちが頑としてドアを開けないので焦ったのか予定が狂って動揺したのか、とにかくテンパってしまい発砲したようだ。
まさか自分たちが撃たれるとは思ってもみなかったのだろう、強盗二名は怯えて泣いていた。その二人を霧島は手錠で捕縛する。粗悪なコピー銃、いわゆるサタデーナイトスペシャルを取り上げ、重量級のカウンターの短い脚を通して二人を繋いであるので逃げる心配はない。
既に遠くから所轄の貝崎署と思われる緊急音が聞こえていた。
一方の京哉はシェフたちが心配で部屋をノックした。まだ警戒しているのかなかなか開けて貰えず、しつこくノックの連打をするとやっとドアが開く。
けれどシェフたちは顔を出さず、代わりに降ってきたのはとんでもなく重たい衝撃で京哉は声すら上げずに昏倒した。驚いた霧島が慌てて駆け寄る。
顔を出したシェフはフライパンを構えたまま「アー」と口を開けた。
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