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「宮下さん、ごめん…僕、稲延やねん。」 長めの前髪を手櫛で掻きあげ、眼鏡をはずした。 「あっ…」 思わず稲延さんを指さしてしまった。 「ごめん。言いたいことあると思うんやけど、僕から先に言わして欲しい」 申し訳なさそうな表情の彼に、頭の整理がつかない私。そんな私は、そんな彼に意思表示で頷いた。 「ありがとう。まず…会社と全く違う格好をして、宮下さんと分かっていながら正体を明かさんと接していてごめん。でもこれは宮下さんを騙そうとしてた理由(わけ)と違うねん。会社やったら宮下さん僕に素っ気なくって、分厚い壁を感じんねん。でも観望会でこの格好で僕って分からへんかったら、普通に喋ってくれて、すごく楽しいねん。壁を感じひんねん。」 「あの…騙そうとしてないのは、分かりました。でも、なんで今のこの格好を?」 「あー、それは、三年前…入社した年かな…友達の中で星好きなヤツがおって、星空観望会に誘ってくれてん。行く時、その友達が、『俺、稲延の専属スタイリストやったる』って思いっきり遊ばれて、あの格好になってん。でも、眼鏡は自前やねん。僕、スッゴい目悪くて、レンズ分厚いねん…あっ、話し逸れた。友達に誘われてこの格好で参加した時、丁度宮下さんも参加してて、見てたらすごい生き生きしてて、ちょっと話し掛けたら結構喋ってくれてん。宮下さん、会社にいる時、僕に対して壁があって、よそよそしいやん…見覚えあるやろ?」 少し感じ悪く私を見て、話す稲延さん。 「はい…まぁ…」 確かに見覚えがあります…。
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