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③
会社の帰り、欲しい本があったことを思い出して、急きょ花田書店へ行くことにした。
店内で欲しい本を探してキョロキョロしながら歩いている時、たまたま七夕特集のコーナーを見つけてしまった。星が好きな私は、ほしい本のことなんか一瞬にどこかへ行ってしまって、吸い寄せられる様にそのコーナーへ行ってしまった。
コーナーに着くと、平積みにされている星の写真集が沢山あった。その中から目に留まった天の川の写真集を手に取って、ゆっくり一ページ目を開けてみる。
そこには、肉眼では見えない素晴らしい星の世界があって、すぐに引き込まれる。無意識に捲るページ。私の回りは段々星の世界になっていく。
急に世界が揺れ出して、現実に戻される…とんとんとんと、軽く肩を叩かれて、「宮下さん、宮下さん」と、声を掛けられていた。
ゆっくり写真集から顔を上げて、声の主をぼーっと見る。そこには、ノーネクタイ・ノージャケットのスーツ姿の背の高い人が少し屈んで返事をしない私を心配そうに見ていた。
背の高い人とぼーってしている私の視線が交じり、はっとする。
「えっ?あの、稲延さん…ですよね?…あの…お疲れ様でした」
軽く頭を下げる。
「うん。お疲れ様でした、宮下さん。あの、大丈夫?声掛けてんけど、反応悪そうやったから」
変わらず心配そうな表情の稲延さん。
「はい。あの、大丈夫です。ありがとうございます。写真集に見入ってしまって、それで反応悪かったんです」
「そうやったんや。それやったらよかった…あの、ところで、その写真集って何?」
ほっとした稲延さんが、私が持っている写真集を指さす。
「えっ?あっ、天の川の写真集です」
慌てて表紙を見せる。
「へー…天の川…好きなん?その…星とか」
「はい。昔から星が好きで…」
「へー、そうなんや。そしたらその写真集、えらい見入ってたし、買うん?」
「ぁ…どうしょうかなぁと思ってます。その…そこそこしますし」
「まぁ、安くはないわなぁ」
「ええ、まぁ…」
少し間があき、何となく居づらく感じ、手にしていた写真集をそっと置いて、背の高い稲延さんを見上げる。
「あの、私これで失礼します。お疲れ様でした」
頭を下げ、急ぎ足でコーナーを去る。
「ええっ、宮下さん!?」
稲延さんに呼ばれた声は後ろから聞こえていたけど、聞こえない振りをしてしまった。
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