1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

 その日の仕事が終わって、大急ぎでアパート(いえ)に帰った。それは、お昼に稲延さんがくれたお礼がずっと気になって仕方がなかったから。 いつもはちゃんとしている手洗い・うがいもそこそこに、通勤用の大きめのトートバックを木製の四角いローテーブルに置いて、座布団の上に座る。トートバックからあの荷物を出して手に取ってじっと見てみると、それは、クラフト用紙でちょっと雑に包まれていた。ローテーブルにそれを置いて、クラフト用紙に貼っているテープをゆっくり剥がしながら包みを解く。すると、中からコバルトブルーの包装紙できれいに包まれたプレゼントが出てきた。 そのプレゼントをよく見ると、B6位のメモ用紙がテープで貼られていた。そのメモ用紙をプレゼントからそっとはがして、読んでみた。 ≫宮下さんへ あの時見ていた天の川の写真集、続き見て欲しくって買ってみた。だから気にせずもらって欲しい…って言うのは建前で、ほんまは、宮下さんと話す機会がどうしても欲しくって、きっかけ作りにこんなことをしてん。隣の市にある天文館でやる月一回の星空観望会、八月の分、今週末にあるけど宮下さんは参加する?僕はする予定。会えたら話したいことがあるので、宮下さんが参加することを楽しみにしています!≪  読み終わって、ふと疑問に思うことが一つ…四~五年前から大体星空観望会に参加してるけど 、稲延さんを見たことがない。らしき人も見たことがない。参加する人は八割方ほぼ毎回おなじで、名前は知らなくても挨拶程度に顔馴染みの人が多い。 ーーー今週末の星空観望会、稲延さんに会えると思うと嬉しいけど…。 と、彼のことを考えると急にどきどきして落ち着かなくなる。とにかく落ち着こうと、写真集を包んでいる包装紙を破らないように丁寧に解いていくことにした。  なんとか破らずに解くことが出来て、その包装紙をきれいに畳んで、メモ用紙と一緒に小物入れの箱へ仕舞った。  写真集を手にして、ページを捲る。でも折角の写真集を見ることにより、どうしてもあの時の…花田書店でのことを思い出してしまい気が気でなく、結局、静かに本を閉じて、そっとローテーブルに置いた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!