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⑦
時間になったようで、職員さんがメガホンで声掛けを始めた。
「お集まりの皆さん、時間になったので、星空観望会を始めたいと思います。今回も晴れてよかったですね!さて、東の低い位置に見えているお月様は、十七日目の月〈立待月〉と呼ばれる満月から少し欠けたお月様です。そのお月様と見頃を迎えている土星が接近して見えます。今日は望遠鏡でその様子を見る予定です。あと、星座早見盤をお持ちの方は、夏の大三角形を探したりしてみても楽しいかと思います。観望会は、二十時半で終わりです。自由解散の為、各自気を付けてお帰りくださいね。では、望遠鏡の準備できていますので自由に楽しんで下さい。では、以上で終わります」
職員さんの挨拶が終わり、参加者が拍手をする。それからみんな、各々散らばっていくけど、私はその場で立ったまま、辺りをゆっくり見回して稲延さんを探してみる…でも、いない…けど、少し離れた場所に私と同じ様に立ったままの男性がいた。その男性…彼と目があって、彼の方から軽い会釈があって、私も同じ様に会釈をして、そして、彼にゆっくり近づいていく。近づきながら彼について考える。
ーーーほぼ毎回観望会で会うけど、名前は知らへん。そんな彼の今日の格好はいつもとほぼ同じで、前髪長めで全体にボサッとした感じの髪型、分厚いレンズの黒ぶち眼鏡を掛けて、白のだぼっとしたTシャツに、太めのストレートのジーンズ、そして、スニーカー…。必要以上に人と関わるのが苦手な私が、彼に対しては、喋りやすく、苦手意識を持たない人。
一人分離れて彼の横に並ぶ。彼に話しかける為、彼を見上げる…ふと、思う。彼の身長は、稲延さんと同じくらいやなぁと。
「あの、こんばんは!一ヶ月振りですね。お元気にされていましたか?」
「こんばんは。元気にしていましたよ」
小さめの声で返事をする彼。
「今回は、望遠鏡で月と見頃の土星が一緒に見えるんですね。きれいに見えるといいですね」
「そうですね」
やっぱり小さめの声で返事をする彼。
「あの…」
と、彼が小さめの声で私に話し掛けてくれた。
「はい!」
嬉しくって元気よく返事をする。
「望遠鏡で月と土星を見たあと、早いですが僕の車で一緒に帰りませんか?あなたに話したいことがあるんです…」
少し大きい声で話す彼。
この話で稲延さんのことが頭の中から完全に飛んでしまった。
「わ、私に話したいことですか…?」
急に違うどきどきが心臓を襲う。
「はい。あの…このあと予定ありますか?」
「い、いいえ。何もないです」
今度は、私が小さめの声で話してしまった。
「じゃ、僕と一緒に帰ってもらえますか?」
「はい。宜しくお願いします」
「ありがとうございます」
彼の表情は、眼鏡と前髪に隠されて分かりづらく、でも口許が綻んでるように見える。
「じゃあ、早速望遠鏡を見に行きましょう」
彼の誘いを受け、後をついて行く。
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