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⑧
二台ある望遠鏡は、各々同じぐらい列が出来ていて、彼は迷わず左側に並んだ。続いて私もその後ろに並ぶ。そして、ふと思い出す…前から彼に聞きたかったことを。少し勇気を出して彼の肩をとんとんっと軽く叩いてた。
「はい」
と振り向く彼。もう少しだけ勇気を出して聞いてみる。
「あの…今更なんですが、名前を教えてもらえませんか?私、宮下と言います」
戸惑った様子を見せる彼。
「ごめんなさい、今は言えません。でも、このあと、必ず車の中で名前、言いますから…」
やっぱり小さな声で答える彼。その返事に少し落ち込むけど、このあと車の中で分かるから…と気持ちを改める。次は断られない?…とおもいながら聞いてみる。
「分かりました…あの、お腹すきません?」
「えっ?お腹?あー…空いてます」
ちょっと照れた様子。
「よかったら、お菓子食べませんか?」
「お菓子?食べたいです!」
「じゃ、ちょっと待ってくださいね」
彼に断れなかったことにホッとして、リュックを前掛けにして、中から数種類のお菓子を出して彼に見せてみる。
「どれがいいですか?」
「わっ!選べるんですね。んー…じゃ、これにします」
「どうぞ!」
と、彼が指さしたのを渡すと、笑顔でお礼が返ってきた。自分の分は残りから選んで、あとはリュックに仕舞って、背負い直した。
お菓子を食べ終わる頃に順番がまわってきた。
「はい、次の方どうぞ!」
職員さんに促されて、まず彼が望遠鏡を覗き込む。
「うわぁー、きれいやー」
彼の楽しそうな声が聞こえてきた。次は、私の番。期待が高まる!
少しして、彼が望遠鏡から離れた。
「はい、では、次の方どうぞ」
職員さんが、声を掛けた。
いそいそと近づいて望遠鏡を覗いてみた。見えた立待月が本当にきれいでちょっと感動してしまった。
次の人に変わるのに望遠鏡から離れて、少し離れた場所で待っている彼の所へ向かった。
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