1/1

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

 二台ある望遠鏡は、各々同じぐらい列が出来ていて、彼は迷わず左側に並んだ。続いて私もその後ろに並ぶ。そして、ふと思い出す…前から彼に聞きたかったことを。少し勇気を出して彼の肩をとんとんっと軽く叩いてた。 「はい」 と振り向く彼。もう少しだけ勇気を出して聞いてみる。 「あの…今更なんですが、名前を教えてもらえませんか?私、宮下と言います」 戸惑った様子を見せる彼。 「ごめんなさい、今は言えません。でも、このあと、必ず車の中で名前、言いますから…」 やっぱり小さな声で答える彼。その返事に少し落ち込むけど、このあと車の中で分かるから…と気持ちを改める。次は断られない?…とおもいながら聞いてみる。 「分かりました…あの、お腹すきません?」 「えっ?お腹?あー…空いてます」 ちょっと照れた様子。 「よかったら、お菓子食べませんか?」 「お菓子?食べたいです!」 「じゃ、ちょっと待ってくださいね」 彼に断れなかったことにホッとして、リュックを前掛けにして、中から数種類のお菓子を出して彼に見せてみる。 「どれがいいですか?」 「わっ!選べるんですね。んー…じゃ、これにします」 「どうぞ!」 と、彼が指さしたのを渡すと、笑顔でお礼が返ってきた。自分の分は残りから選んで、あとはリュックに仕舞って、背負い直した。  お菓子を食べ終わる頃に順番がまわってきた。 「はい、次の方どうぞ!」 職員さんに促されて、まず彼が望遠鏡を覗き込む。 「うわぁー、きれいやー」 彼の楽しそうな声が聞こえてきた。次は、私の番。期待が高まる! 少しして、彼が望遠鏡から離れた。 「はい、では、次の方どうぞ」 職員さんが、声を掛けた。 いそいそと近づいて望遠鏡を覗いてみた。見えた立待月が本当にきれいでちょっと感動してしまった。  次の人に変わるのに望遠鏡から離れて、少し離れた場所で待っている彼の所へ向かった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加