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最近、あたしのカレはやけに羽振りがいい。
鈍感な女でも絶対に変だと思うほど、着る物が変わり、食べる物が変わり、こないだはプラチナの指輪までプレゼントしてくれた。
「隆治、どうしてそんなに景気いいのよ」
そう訊ねると、紫煙をくゆらせながら目を逸らすカレ。
「競馬の調子がいいって言ってるだろ。おまえも得してんだから別に訊くなよ」
確かに隆治は競馬に夢中だ。だから基本的に土日は会えない。それ以外の日、たとえば今みたいにあたしの部屋を訪れても、勉強だ研究だと言って、馬や騎手の情報を集めている。
「まあ、そんなことよりさ、水恵、頼みたいことがあるんだワ」
煙草を灰皿で揉み消して、何だか怖い眼であたしを見る。
「おまえの大学に、及川っているだろ。相当な美人だっつう女」
何だか嫌な予感がした。隆治からその名前が出るとは思わなかった。
「⋯麻美先輩に、何する気よ?」
あたしが尊敬してやまない麻美先輩。悪い胸騒ぎが止まらない。
「いや、ちょっとな。話は別の女がする。そろそろ⋯来る頃かな」
隆治につられて時計を見れば、午後二時ちょうど。そこで、部屋のチャイムがピンポンと鳴った。何、何なの、どうしてあたしの家に⋯誰を呼んだのよ!
戸惑うあたしを置いて、カレは玄関へ行き、扉を開けた。
そこに立っていたのは、無愛想な顔をした小柄な女だった。
そいつは軽く会釈して、
「琴吹です。今日は水恵さんに協力してもらうべく参りました」
言いながら靴を脱ぎ、断りもなく部屋にあがってくる。
隆治の隣に座り、あたしと向き合った琴吹さんは、印鑑の捺してある一枚の紙を見せてきた。
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